「たしなんでると思えばいい」落語家の金原亭世之介さんは原田病ほか数々の病気を経験
金原亭世之介さん(落語家/64歳)=原田病ほか
去年6月末、ミュージカルの舞台稽古中に激しい腹痛から「胆石」がわかり、そこから運よく「上行結腸がん」が見つかりました。胆石を治療で散らしてくださった先生が、後からわざわざ「気になるから大きな病院を受診してください」とCT画像のCDを送ってくれたのです。ちょうどコロナの影響で舞台が中止になったので大宮中央総合病院に持って行ったらすぐ手術になりまして、大腸の3分の1ぐらいと胆石の原因である胆のうを取って、お金も取られました(笑)。
でもね、遡れば20年前の「鼠径ヘルニア」からいろいろ病気をしておりまして、中でも2013年に発症した「原田病」は珍しい病気で、治療の副作用によって「糖尿病」や「メニエール病」(内耳にリンパ液がたまり激しい回転性めまいを起こす病気)などを発症し、今でも複数の先生に診ていただいています。
原田病の入院のきっかけは、ゴルフの最中でした。バーディーパットのとき、突然視界の真ん中がグニャッとして見えなくなったのです。外側の景色は見えるのに中心は真っ黒でした。病院で調べてもらうと「脳は大丈夫。おそらく原田病だと思う」と言われました。
この病気は、自分の免疫が全身のメラノサイト(メラニン色素を作る細胞)を攻撃してしまう自己免疫疾患です。目や耳に障害が出たり、白髪や皮膚の白斑、内臓にも変化が出る病気で、ステロイドという免疫抑制剤を大量に投与するのが主な治療です。
■入院したときは真っ暗なうえに無音の世界だった
紹介された東京女子医科大学病院で検査を受け、入院することになりました。独演会をはじめ仕事がけっこう入っていたので、入院直前まで動き回っていました。暗闇でやっと物の形が見えるくらいの視力で電車に乗ってね。道路に出れば、わずかに見える白線を頼りに寄席にたどり着く感じでした。耳もだんだんと聞こえにくくなって、話し声なんかまるで蚊がしゃべっているようにしか聞こえませんでした。
独演会の翌日にやっと入院したときには、両目、両耳の機能がほぼゼロになり、真っ暗なうえに無音の世界でした。そりゃ不便でしたよ。女子医大病院は美人の先生や看護師さんが多いと聞いていたのに全然見えないし(笑)。
治療は大量のステロイドを1日24時間、1週間点滴するステロイドシャワー療法でした。これが効いて2~3日目から目も耳もうっすら回復し始めて、20日間ぐらいで退院できました。50%ぐらいの回復でしたけれど、世の中の明るさと音のある世界が戻ってきました。
ただ、ステロイドの大量投与が体に与えるダメージは大きくて、副作用として糖尿病とメニエール病のほかにも、たとえば骨粗しょう症だったり、うつ病で気力が失せた時期もありました。こまめに薬を調整しながら過ごしているというのが現状です。
糖尿病はインスリンを1日3回打っていた時期もあったんですが、面倒になったので、今は医師の定期検診を受けながら「毎食、山盛りの野菜を食べる」という民間療法を取り入れて、穀類はあまり食べずに血糖値を安定させています。
じつは2017年には2度ほど救急車で運ばれました。最初は「めまい性発作のショック嘔吐」。いわゆるメニエール病です。2つ目は「冠攣縮性狭心症」です。いずれも独演会終わりに具合が悪くなりました。おかげさまで1週間ほどの入院で済みましたが、次に発作が起きたとき用にニトログリセリンを持たされましたよ。
最近でいえばステロイドによる「白内障」で、今は目の真ん中がぼやけています。ちょっと中心をずらせば新聞の小さい字までちゃんと読めますけどね。でも耳はずっと治らなくて、補聴器を両耳に使っています。右耳はほぼ聞こえなくて、ずっと“ニィニィ蝉”を飼っているような感じです。
このところコロナの感染力がすごいので、免疫抑制剤を飲まないようにしていたら、先日もメニエール病で倒れてしまって、また国立劇場「鹿芝居」の稽古中に救急車で運ばれました。ステロイドを8錠飲んだらケロッと治って、舞台に穴をあけることはなかったんですけど、糖尿だ、心臓だ、大腸がんだと基礎疾患がいっぱいあるので、コロナにかかったら軽症では済まないでしょうし、免疫を抑制しないとメニエール病で倒れちゃうのでやっかいなもんです。
今は亡き古今亭志ん生師匠の言葉に「貧乏ってのはするもんじゃねぇ、『たしなむ』もんだ」っていうのがありますけど、病気も同じです。病気になったことを悔やむんじゃなくて「病気をたしなんでる」って思えばいい。そうしていればなんとなく楽しいじゃないですか。
そういえば、今月も大腸ポリープ2つ取ったんだけど、その話はもういいですか?(笑)
(聞き手=松永詠美子)
▽金原亭世之介(きんげんてい・よのすけ)1957年、東京都生まれ。1976年に10代目金原亭馬生に入門し駒平を名乗る。1980年に二つ目昇進後、金原亭伯楽の門下となる。1992年に真打ちに昇進し、世之介を襲名。2014年には大正大学表現文化学科客員教授に就任。執筆、講演、ミュージシャン、俳優、俳人などマルチに活躍している。
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