【エキノコックス症】幼虫を完全に死滅させる駆虫薬はなく予防が重要
「エキノコックス症」はエキノコックス属条虫の幼虫(包虫)に起因する疾患です。日本では北海道のキタキツネが主な感染源で、糞中にエキノコックスの虫卵が排出され、ヒトにはその虫卵が手指、食物、水などを介して口から入ることで感染します。また、北海道で放し飼いをして感染したイヌもキタキツネ同様に感染源となります。北海道以外でも、ここ数年、愛知県の知多半島でイヌのエキノコックス症が多数報告されています。
ヒトが幼虫の寄生を受けた場合、感染初期(約10年以内)は、無症状で経過することが多いのですが、その後、幼虫は肝臓など主要臓器の組織内でがんのように無秩序・無制限に増殖し、重篤なエキノコックス症をもたらします。肝臓などで幼虫が発育すると、肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害などが現れます。さらに進行すると胆道や脈管などの他臓器に浸潤し、閉塞性黄疸、病巣の中心壊死、病巣感染を来して末期には腹水や下肢の浮腫が出現し、やがて死に至ります。肺、腎臓、脳などでも包虫は発育することが可能で、脳転移すると意識障害やけいれん発作などを起こすケースもあります。
エキノコックスの成虫に対しては、駆虫薬の「プラジクアンテル」がほぼ100%効果があり、キツネやイヌに広く用いられています。しかし、人体エキノコックス症の原因となる幼虫に対しては、完全に死滅させる駆虫薬はなく、外科的切除が唯一の根治的治療法となります。