高齢者の歯科治療では「基礎疾患」の把握が重要なポイント
数年前、歯周病が原因で歯が抜けてしまい10本程度しか残っていない60代半ばの男性患者が来院した。米国の会社への転職が決まり、半年後に渡米するのでその前にインプラントを入れて歯をきれいにしてほしいという。
しかし、問診の段階で既往歴や基礎疾患が曖昧だったうえ、糖尿病患者に多く生じる甘酸っぱいアセトン臭があったため、その場で簡易的な血液検査を実施した。結果、過去1~2カ月の血糖値の平均を反映するHbA1cが12.0%という高値だった(正常範囲4.6~6.2%)。インプラントどころか、緊急にインスリン注射や入院治療が必要なレベルに該当する。すぐに糖尿病を診ている病院に行ってもらい、血糖値の改善を優先することになった。
結局、渡米までの期間では、日本糖尿病学会が目標値としている「7.0%未満」までは下がらなかったため、インプラントは埋入できず、残った歯をすべて抜いて、精密な総入れ歯を作る治療が選ばれた。それでも、本人から「あのまま気づかなければ糖尿病がもっと深刻な状態になっていた。命拾いした」と感謝されたという。