日本における心臓移植は外科医の育成そのものも欠かせない
また、循環器内科の側も重症心不全の治療や管理に関わる人材育成が十分にはできていないジレンマがあります。これと同じようなパターンの最たる例が、東大病院で行われた上皇陛下の冠動脈バイパス手術を他施設から呼ばれた執刀医が行ったというケースです。
さらに、一般的な心臓外科手術の手技の延長として心臓移植を安全に行える技術を持った外科医がきわめて少ないことも問題です。日本では、多くの施設の代表として従事する心臓血管外科医が、心臓移植手術を「特別な訓練を経験したうえで行う手術技術」と勘違いしているからです。このような医師たちが教育する立場にある施設では、若手医師にも「心臓移植手術が特別な手術だ」という認識が増幅されて伝わり、携わりたいと思っている手術でさえ、ますます遠ざけるようになりかねません。日本の心臓移植に関わる人員不足や施設不足には、このような背景も影響しているのです。
■「異種移植」のさらなる進歩に期待
こうした問題を改善するために東京科学大(旧・東京医科歯科大)病院が心臓移植の実施を目指して手を挙げたことに関しては、きわめて有意義なことで、最近数年間の一般的な心臓血管外科手術の成績と、従事している人員などが調査されたうえで認可を受けると思われます。ただその際は、それらのデータを公表すると同時に、これまで心臓移植を実施してきた施設も同様の治療成績データと従事者数を公表していくことを求めたいと思います。現状、心臓移植手術では前後の管理なども含めて1人2億円ほどかかるとされ、そのような高額な医療費を間接的に負担していく国民に対しては、それが適正な情報提供といえるでしょう。