「純情 梶原一騎正伝」小島一志著

公開日: 更新日:

「巨人の星」「あしたのジョー」「愛と誠」などの劇画原作者として大成功をおさめながら暗転、梶原一騎はスキャンダルにまみれた。暴力的、女狂い、酒乱、ビッグマウス……。著者は、世間に流布する伝説を一つ一つ検証し、梶原一騎像を覆してみせた。

 1983年5月、絶頂期にあった梶原は愛宕署に連行された。編集者やクラブのホステスへの暴行、アントニオ猪木監禁容疑での逮捕劇だった。マスコミはこれを大々的に報じ、梶原バッシングがエスカレートしていく。偶像は地に落ちた。

 梶原一騎こと高森朝樹の出自は諸説あって定かではない。3人兄弟の長男で、川崎市浜町あたりで育った。かんしゃく持ちの悪ガキで、思うようにならないと暴れる。算数も理科も体育もできないが、作文だけは一番。少年向けの小説の懸賞に入選し、劇画作家の道を歩み始める。「巨人の星」の大ヒットで若くして成功し、惚れた女性・篤子と結婚。浅草の踊り子だった篤子と厳格なクリスチャンである母“や江”は不仲だったが、順風満帆といえる人生だった。

 しかし、子供がそのまま大人になったようないかつい巨漢は、誤解を招きやすかった。酒好きで、喜怒哀楽を隠せない。ケンカ好きの格闘技オタク。世間に与えるイメージは決して良くない。

 そんな梶原の人間としての「愛と誠」に触れた人物がいた。梶原を2カ月にわたって取り調べた刑事、亀澤優である。亀澤の証言は、悪しき梶原伝説を覆して余りあるものだった。警察の真の狙いは、当時すでに梶原と離婚していた妻・篤子だったのだ。篤子は結婚前から覚醒剤常習者で、実刑を受けたこともある。警察の標的は覚醒剤密売ルートの元締だったのだが、正直に取り調べに応じる梶原に覚醒剤の影はない。そして、梶原が自分を盾にしてまで守ろうとしているのは篤子だということがわかってくる。

 梶原が生み出した名作の源には、人知れぬ「純情」があった。

(新潮社 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  3. 3

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 4

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  5. 5

    マイナ保険証「期限切れ」迫る1580万件…不親切な「電子証明書5年更新」で資格無効多発の恐れ

  1. 6

    阪神・西勇輝いよいよ崖っぷち…ベテランの矜持すら見せられず大炎上に藤川監督は強権発動

  2. 7

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  3. 8

    Mrs.GREEN APPLEのアイドル化が止まらない…熱愛報道と俳優業加速で新旧ファンが対立も

  4. 9

    「夢の超特急」計画の裏で住民困惑…愛知県春日井市で田んぼ・池・井戸が突然枯れた!

  5. 10

    早実初等部が慶応幼稚舎に太刀打ちできない「伝統」以外の決定的な差