患者にとって「がん」という言葉は計り知れないほど重い
私が担当している内科外来診察室でのことです。元商社マンのBさん(80歳)は高血圧で通院治療をしていますが、今回は予定を早めて来院されました。声がかすれるため自宅近くの耳鼻科で鼻からの内視鏡検査を受けたところ、「声帯の安静と抗炎症剤で様子を見ましょう。きっと声帯ポリープで、がんではないだろうとは思いますが……」と言われたそうです。
ただ、Bさんにしてみれば安心できず、「耳鼻科の先生は『がんではないだろうとは思いますが』と言うが、それでは困る。もっとしっかりしたがん専門の信頼できる医師を紹介してほしい」と言います。ひとまず耳鼻科医が処方した内服薬で様子を見て、また相談することになりました。
非常勤社員のOさん(65歳・男性)は職場の健診でPSA(前立腺特異抗原)の高値を指摘され、前立腺がんを心配して来院。その際、Sがん拠点病院の泌尿器科を紹介し、2カ月後に検査結果を持参して再び戻ってこられました。
S病院では、CTとMRI検査の後に前立腺の生検が行われ、10個の検体のうち2個にがんが見つかりました。その後の骨シンチ検査で骨転移はなく、全体の所見から低リスクと診断され、治療はせずに定期的にPSA検査などで経過を見ることを勧められたと言います。医師からは「がんが早期の場合、手術をしても放射線治療をしても、何もしない場合と比べて10年生存率は変わらないという海外のデータもある」と言われたそうです。