一切の治療を拒否 理由は両親のがん死で生じた医療不信
ステージⅣの進行性の食道がんだと伝えた医師は、続けてこう言葉を継いだ。
「どのような治療を行うか、家族とよく相談して考えて決めてください」
私は即座に「結構です」と返事をした。医師はその言葉の意味がわからなかったようで、けげんな表情で同じ言葉を繰り返した。そしてこうも言った。
「がんは放っておくと確実に増殖し、みるみる大きくなって全身に転移する。ひどい痛みに苦しみながら死に至ることになる」
私は「がん治療を受けないのが、私のポリシーである」と伝えた。
その根拠は、33年前の両親の死だった。私は両親をともにがんで亡くしている。
父は長年、右頭部に痛みを訴え、地元で一番といわれる大学病院でさまざまな検査を受け続けた。結果はいつも正常。何年後かにようやく鼻腔(びくう)がんと診断され、がんの摘出手術を受けた。しかし“寛解”したはずが、頭痛は消えなかった。
そしてそれから数年後、脳への転移が判明し、入院。ところが脳全体に腫瘍が回っていることがわかり、手術を断念した。そして、その数カ月後、父は意識もなく、眠るように旅立ったのだ。享年67(満65歳)だった。