無理な「在宅」で最期まで“自分らしい暮らし”ができるのか
妻は私にこう言っていました。
時には、ショートステイで1週間ほど2人を施設に預かってもらいました。しかし、その時は妻の体の負担は癒やされても、心の負担は癒やされませんでした。
「自分は優しくしてあげたいのに……」
妻は時々、父母に厳しいことを言ってしまって、2階に上がってひとり自分の情けなさに泣いたといいます。そして、こんなことを言い出したのです。
「ノイローゼになってしまいそう……私が先に死ぬ」
■親に向かって大きな声を出す自分が情けなくなった
試しに特養老人ホームを見学に行くと300人以上の待機者がいて、何年待つか分からないと言われました。
朝早くから夜遅くまで、重症がん患者を診る私の勤務は続きました。ある年の正月、私が父母の介護を担当しました。夜中、呼び鈴が鳴りました。行ってみると、トイレに立った父が「汚してしまった。悪いなー」と言います。私は「大きなおむつだから、そのまま動かないでいてと言ったでしょ! こんなに汚してしまって!」と思わず声を張り上げてしまいました。親に向かって大きな声を出す自分自身が情けなくなりました。私はようやく、妻ひとりでの介護はもう無理だと実感したのです。