<2>家を買う 猫好きの妻のために堂々と飼えるマンションを
だが、佳江さんが新居に暮らしたのは1カ月にも満たなかった。
「がんが肝臓に転移していました。肝臓に転移したということは、治る見込みが限りなく少ないということですから、この頃は彼女も自分の死を認めていました。自分でカタログを見て介護ベッドを選び、そこのリビングルームに置いて寝起きした。料理上手でしたが、衰弱していたので、残念ながら調理場に立つことはかないませんでした。その代わりに冷蔵庫やキッチンに『ここは、こうやって』といったメモをいろいろ貼ってくれました。僕は仕事で家を空けることもあり、そんな時に痛みが出ると大変ですから、引っ越しが完了するまでは義理の母の家に預かってもらったのです。ですから、ここにいたのは1カ月に満たなかったですね」
メモは6年経った今もずっと同じ場所に貼られている。
「ただ、引っ越してから2度ほど花火大会を見ることができた。こんな幸せな時間のために新居に引っ越してきたんだよ、と妻は言いたかったのかもしれません。最後にしてあげられた僕からのプレゼントってなるのでしょうかねぇ……」
佳江さんは資産価値のことまで考えてこの家を選んでいたという。その後も住み続ける夫が路頭に迷わないよう、妻からのプレゼントだった可能性もある。
(つづく)