余命を一度も口にしたことがない担当医に感謝する患者の思い
肝臓外科の医師は、手術について肝臓の血管や胆管のことなど専門的な説明をたくさんしてくれましたが、Tさんにはほとんど理解できませんでした。それでも、Tさんは手術を決断しました。それは、説明してくれた肝臓外科医の態度から「この医者には任せられる。この医者に命を懸けてみよう」と思えたからだそうです。
肝臓がんの手術は6時間かかりましたが、無事に大きな腫瘤を切除できて、Tさんは元気に回復しました。そして、内科に戻ったTさんの採血検査結果では、がんのマーカーがほとんど正常値になったのです。これまでの治療で腫瘍マーカーが正常になったことはありませんでした。それだけにTさんは大喜びで、家族、友人もみんな喜んでくれました。
ところが、M医師は淡々としています。喜んではくれましたが、それほどではありませんでした。この時、Tさんは「ウソでももっと喜んでくれればいいのに」と思いましたが、「これがいつものM医師だからな」とも考えました。
その後の採血では、腫瘍マーカーの数値が少しずつ上がってきました。そして、手術から3カ月後のCT検査で肺に新たな小さい転移が見つかったのです。