抗HIV薬の進化で感染者とそうでない人の平均寿命はほぼ同等に
ウイルス感染症には、「一過性に感染するもの」と、「一度感染するとウイルス自体が体から出ていくことはなく、免疫力が下がるなどのタイミングで発症するもの」の2種類があります。
前者はコロナウイルスやインフルエンザウイルスが該当し、後者の代表例としてはヒト免疫不全ウイルス(HIV)が挙げられます。
HIV感染症(エイズ)は、かつては治療法がなく、いったん発症すると1~2年で死亡してしまう致死的な疾患でした。しかし、治療薬の開発によって患者の生命予後が劇的に改善し、今では「HIV感染者とそうでない人の平均寿命はほぼ同等」という研究結果も報告されているほどです。
HIVはヒトのT細胞に感染します。T細胞は血中のリンパ球の一種で、免疫機能をつかさどる細胞です。キラーT細胞とヘルパーT細胞の2種類に大別されます。特にヘルパーT細胞は、免疫システムの総司令官的な役割をしています。
HIVはヘルパーT細胞に寄生し、増殖します。そのためヘルパーT細胞が減少し、免疫システムが働かなくなります。これによって免疫力が低下すると、感染症などさまざまな病気を発症します。これがエイズです。 エイズの発症を抑えるためには、まずウイルスの増殖を抑え、ウイルス量を低く保つことが重要です。1996年以降に開発された抗HIV薬によって、ウイルスの増殖を抑えることができるようになり、エイズを発症する患者が減少しました。エイズに対する社会的な恐怖心がやや和らいだことは、抗HIV薬開発の大きな貢献といえるでしょう。
次回は抗HIV薬について、その歴史や種類、効果について解説します。