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佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

口腔がんの手術に臨んだ外科医の「気構え」が忘れられない

公開日: 更新日:

 手術中の教授の迫力は凄まじいものでした。

「ん! そこ!」と太い声で指示を出し、助手を務める医師が「は! はい!」と答えながら進行していきます。教授は時々、鋭い目で私の方を睨みます。私はずっと緊張して見ていました。

 大きな塊を取り切った後、今度は皮膚を縫い戻します。もう手術の終わりが近づいていました。ところがここまできて、教授は皮膚が合わなくなっていることに気づいたようでした。大きな塊がなくなったため皮膚が余ってしまったのです。

 教授はせっかく縫ってきた糸を切って、また縫い直しました。私は「え? こんなこともあるんだ」と驚きました。今も忘れられない思い出です。

 当時は、放射線治療も薬物治療も、今とは雲泥の差がありました。手術が唯一の助かる手段でした。ですからあの頃は、手術を行う外科医師の「患者のために治すのだ」という気構え、気迫が凄かった気がします。

 最近は、エビデンスに基づいた標準治療、ガイドライン通りに治療を行うのが当然になっているように思います。そして、医療安全対策が進められました。もちろん、命が一番なのは当然のことです。緩和医療が進んだのはとても良いことです。ただ、決して無理はせず、安全策を選択し、危険な手術はしない……。医師の「何としても治すのだ」という気構えが少し弱くなっているのではないかと、心配になる時があるのです。

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