認知症初期の人はどうして「盗まれた」と訴えるのか?
認知症の症状として、脳の認知機能の低下がみられます。認知機能とは、ものごとを正しく理解し、適切に実行するための機能になります。なかでも、「記憶力」と「理解・判断力」の低下が、日常生活に大きな影響を及ぼします。それによる弊害で、もっとも出現しやすい症状のひとつが、“物盗(と)られ妄想”です。認知症の初期に起こりやすく、財布や預金通帳などを盗られたと訴える症状です。
アルツハイマー型認知症の約3割程度が物盗られ妄想を起こすといわれています。
なぜ、自分がどこかに置いたことを忘れて、他人に「盗まれた」と発想するのでしょうか。それは「記憶力」と「理解・判断力」が関係してきます。
新しく脳神経が再生される場所は「嗅覚神経」と、記憶の入り口である「海馬」の2カ所です。海馬の機能が正常であれば脳の中で新しい記憶がつくられていきます。しかし、認知症の神経障害のために海馬が障害されると、新しい記憶ができません。そのため「記憶力」の低下によって、物忘れが起こります。患者さんは、5分前に財布をどこに置いたかが分からなくなるのです。