認知症初期の人はどうして「盗まれた」と訴えるのか?
ただ、過去の情報は覚えていますから、ものごとの理解も過去の記憶にアクセスし判断します。
5分前に財布を置いた行為そのものは忘れているので、「置き忘れた可能性」や「探さなければいけない」といった状況を理解し、次の行動を判断することができません。目の前にない=自分は関係ない=誰かが盗ったという発想になるのです。
過去にお金のトラブルを起こしたことがある人や他人を信用しないタイプは、より物盗られ妄想を起こす傾向にあります。
さらに、初期症状にやる気の低下や感情がなくなるといわれますが、「性格障害」が現れることも関係しているでしょう。患者さんは、それまでやれていたことができなくなって、精神的に不安になるため、他者に攻撃的になる傾向があるからです。
私たちは外界の世界から五感を通じて脳の中に、ある意味自分に都合の良い現実世界をつくります。
認知症の患者さんは、目に入った新しい情報を記憶できませんから、古い記憶をもとに脳の中で「引き出しに財布が入っている」と想像しています。