将来「フレイル」に陥らないために働き世代ができることとは

公開日: 更新日:

 最近「フレイル」なる言葉をよく耳にするようになった。超高齢社会が進展する中、健やかな老後を送るためにはフレイルに陥らないことが肝心であることは多くの医師が認めているが、そのためにはどうしたらいいのかを探ってみた。

■今後ますます増える!?「フレイル」人口

「フレイル」とは医学用語「frailty(フレイルティー)」の日本語訳。年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい状態を指している。

 東京都健康長寿医療センター研究所が全国の65歳以上の高齢者2206名を対象に調べたところ、8.7%の人がフレイルに、40.8%の人が「フレイル予備軍」ともいえる「プレフレイル」に該当していることが分かったという。この数字は諸外国に比べると低いとはいうものの、コロナ禍を経験し、高齢社会がますます進展していく中にあって今後、増えていくことはまず間違いないだろう。

■将来に備えて筋肉量を増やしておくことが大事

 では、フレイルを避けるためにはどうしたらいいのか、順天堂大学大学院スポートロジーセンターの田村好史先生らが行った調査を紹介しよう。というのは、そこからは見逃すことのできない貴重な結果が得られたからだ。

 調査は文京区在住の高齢者(平均70歳)を対象(1607人)に過去(中高生の時)に運動をやっていたか、あるいは今運動をしているかどうかで4つのグループ(A・過去も現在もやっている B・過去はやっていたが、現在はやっていない C・過去はやっていなかったが、現在はやっている D・過去も現在もやっていない)に分け、筋量・筋力や身体機能の低下が起こるリスクにどのような違いがあるかを調べてみたという。

 すると、測定項目によって差はあるが、最もリスクが高いDグループに比べAグループが最もリスクが低く、B・Cグループは良くてもその中間程度ということが分かった。

「若い頃にスポーツをしていたから身体が丈夫、とも限らない。筋力が自然に落ちて来る30代以降に筋肉の量をしっかり増やしたり、維持して将来に備えるということもとても大事です」(田村先生)

■身体活動の減少が「フレイル」を招く

 さらに、筑波大学人間科学部教授・山田実先生らが行った興味深い調査も報告されている。これは新型コロナウイルスの第1波~第3波における都市部である東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、兵庫、福岡各都県の高齢者1600人の活動量を調べたもので、その結果、1人暮らしで社会的に活発でない高齢者はコロナ禍での身体活動の減少が大きく、フレイルに陥るリスクが高いことが示唆されたという。

「理由として、筋肉は簡単に萎縮することが考えられます。普段約6000歩歩いている高齢者が1400歩くらいに歩数を少なくすると2週間で脚の筋肉量が約3.7%減少してしまうという研究があります。単純計算は出来ませんが、この年代は1年に1ポイントずつ筋肉量が減少するので、相当な減少です。高齢者にとって短い期間でもじっとしているのは、筋肉量を大幅に減らしてしまう原因になり、一気にフレイルになってしまう可能性があるため、注意が必要です」(田村先生)

■たんぱく質、中でも乳たんぱく質をしっかり摂る

 フレイルになるリスクを回避するためには高齢になる前に筋肉量を増やしておくことも重要だということは理解できたが、それでは、そのための基本的な生活スタイルや食生活はどうしたらいいのだろうか。特にゲンダイ読者の多くを占める中年男性の場合について田村先生に聞いてみた。

「中年男性はメタボっぽくて脂肪の量が多く、体重が重いわりには筋肉量がそれほどでもないという人が多いです。メタボ解消のため体重を減らすのはいいですが、問題は減らし方。どう減らせばいいかといえばまずは、炭水化物や脂質を食べ過ぎないように注意することです。そして、それとともに、たんぱく質をしっかり摂り、運動することが大事ですね。それが長い目で見れば将来的なフレイル予防にもつながるのではないかと考えています。また、女性では、過度なダイエット志向により瘦せている傾向にある方が多く、そういった方は同じく将来のフレイルのリスクを高めてしまう可能性があり、同様の対策が必要といえます」

 また、たんぱく質の中でも、筋肉の合成が高まりやすく、手軽に摂れるという点で乳たんぱく質を多く含む牛乳やヨーグルトなど乳製品を勧める専門家も少なくないようだ。

■将来の「フレイル」予防に必要なこと

 人生100年時代を迎え、これから高齢者がどんどん多くなってくる。となればフレイルが増えてくるのも当然だろう。最後に、これから高齢者になる働き世代である中年男性へのメッセージを田村先生からいただいた。

「メタボリックシンドロームで中性脂肪、血圧血糖値が高くなっている人は、脳卒中を起こしやすくなります。脳卒中自体がフレイルを一気に進めてしまうことも多く、メタボに対してしっかりコントロールすること。そのためにたんぱくを意識したバランスの良い食事や運動をちゃんとするということは、実は将来のフレイル予防に対してすごく大事なことだと私は考えています」

 将来フレイルになりたくない現役の働き世代の人々は、この田村先生の言葉を肝に銘じておきたいものだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  2. 2

    大山悠輔逃し赤っ恥の巨人にOB評論家《良かった》 FA争奪戦まず1敗も…フラれたからこその大幸運

  3. 3

    悠仁さまの進学先に最適なのは東大ではなくやっぱり筑波大!キャンパス内の学生宿舎は安全性も高め

  4. 4

    過去最低視聴率は免れそうだが…NHK大河「光る君へ」はどこが失敗だったのか?

  5. 5

    八村塁が突然の監督&バスケ協会批判「爆弾発言」の真意…ホーバスHCとは以前から不仲説も

  1. 6

    《次の朝ドラの方が楽しみ》朝ドラ「あんぱん」の豪華キャストで「おむすび」ますます苦境に…

  2. 7

    国民民主党・玉木代表まだまだ続く女難…連合・芳野友子会長にもケジメを迫られる

  3. 8

    「人は40%の力しか出していない」米軍特殊部隊“伝説の男”が説く人間のリミッターの外し方

  4. 9

    瀬戸大也は“ビョーキ”衰えず…不倫夫をかばい続けた馬淵優佳もとうとう離婚を決意

  5. 10

    迫るマイナ保険証切り替え…政府広報ゴリ押し大失敗であふれる不安、後を絶たない大混乱