認知症の親が子供っぽい言動や行動をするのはなぜなのか
認知症の親が人形遊びに夢中になったり、ご飯を食べさせてとせがんでくる--。介護する家族からそういった相談を受ける機会が少なくありません。これは「退行」と呼ばれる現象で、子供のような行動や言動が現れるのが特徴です。たとえば、目に入ったものを触ろうとしたり、「おめめがかゆくなっちゃったのよ」など、言葉遣いにもしばしば変化が見られます。
認知機能の低下から、思い通りにできないことが増えて徐々に自信が失われ、その現状に目を背けたくなり、本能的に「自分にはできません」と幼子のような態度や行動で示すようになるのです。
当院を受診される認知症の患者さんで、診察時にかつての会社員時代の話をしてくれていましたが、認知症が進行するにつれ幼少期の思い出話をするようになりました。認知症になると短期記憶が難しくなる一方で、長期記憶は保たれます。そのため、幼少期の出来事は鮮明に覚えていて、認知症がさらに進行すると現在と昔の記憶が混同し、その記憶の中で生きるようになります。よくご家族から「認知症の親に『お母さん』と呼ばれて戸惑った」との声を耳にしますが、本人は昔の記憶の世界で暮らしているので、当然、お母さんも生きていると思っているのです。