<1>10歳の娘が食いついた「メダルかじり事件」で思い出す長野の銅メダル
読者のみなさん、はじめまして。今夏の東京五輪が幕を閉じ、次なるオリンピックの舞台は冬、2022年の北京。冬の五輪で5大会、滑り続けてきた私が「すべらない話」なんてできるのか?
このコラムでプロ生活24年で得た経験や思い、スケートのことから世の中のことまでを語り尽くしていきたいと思います。
さて、最近はメディアから少し遠ざかっていた私。いったい何をしていたのか? それはずばり、育児。産後でチャレンジしたソチ五輪で代表になれず、その翌年から25年間住んだ山梨を離れて現在は東京で暮らしている。今年の春、主人が福岡に単身赴任となり、10歳になる娘と愛犬2匹と生活中。講演会で全国各地を飛び回っていたが、昨年からのコロナ禍で仕事は激減。15年から所属していた吉本興業さんを今年2月で退社し、現在はフリーで活動している。
と、近況報告はここまでにして、第1回はオリンピアンとして東京五輪の話題を。開幕前から開催反対の意見が毎日のように報じられていた中、山梨で聖火リレーに参加。走った200メートルはまったくアウェーではなかった。バスで現場に着いたとき、つい調子に乗ってバスの中から手を振ると、集まった人たちから「朋ちゃ~ん」「岡崎さ~ん」という声援。現役当時の景色が蘇ってきた。
東京五輪聖火リレーで感じた「密」
山梨は地元と言っても過言ではない場所。やっと自分の声で山梨の人たちに「ありがとうございました」と言えた気がした。山梨の村だからそんなに人が来ないだろうと思っていたけど、着いたら村外の人も集まってそこそこ密だったのは事実。走り終わった後、沿道の人たちに「すぐおうちに帰って!」と言ったのを覚えている。
大会中はいろんな競技をテレビで観戦。私は新種目に注目していて、サーフィンは特に熱狂した。やったこともないし、2人の対戦形式ということも知らなかったのに、気づいたらテレビに向かって「今の波でいかないとダメだ!」と言っていた。
本来なら娘にも五輪の雰囲気を味わわせてあげたかった。五輪の後、テレビに柔道の阿部兄妹が出ていたので、娘に「この2人兄妹で金メダル取ったんだよ」と言うと、「へぇ~、そうなの、すご~い」と。いや、見てなかったんかい。
その娘のテンションが最も上がったのは、名古屋市の河村市長のメダルかじり。「かじるなよ~!」と言って、めちゃくちゃ食いついていた。
私がメダルを取ったときも、カメラマンさんに「かじって!」と言われた記憶がある。かじる真似はしたけど、実際にはかじっていない。少し口に当てるくらい。当時から、「これって誰が触っているか分からないよなあ。用意している人は手袋なんてしていないし、ほこりがついてるかもしれないし……」と思っていた。
私は自宅に飾っているが、タンスの奥に眠っているとか、公衆電話に忘れてきたとか、タクシーに忘れてきたとか、そういう選手は珍しくない。
リレハンメル五輪のとき、スピードスケート男子500メートルで銅メダルを取った堀井学(現・衆議院議員)は、もらったばかりのメダルを地面に落として、クリスタルでできていた一部分がパリン! 見事に割れちゃった。ショックだったらしいけど、そのままにしているみたい。新品に交換したくても、誰かがかじってくれないと替えてくれませんからね。