世田谷246ハーフマラソンから「箱根駅伝」が見えてくる!
国道ニーヨンロクから箱根駅伝に愛を込めて(上)
(井上梨紗/フリーランス・アナウンサー)
このコロナ禍でも朝ジョグ、夜ジョグにいそしむジョガーたちは、都心に住んでいる私の周囲でもずっと見かけていた。
「健康維持のため走っているんだね!」なんて思いながらも、「たまにはさ、大会にも出たいよ!」って思っている人も「多いんじゃないかなぁ~」と思っていた。
そうじゃないと張り合いがないって言うか……。自分の位置も確認したいし、目標が設定しにくかったり、とかあるよね。
あとジョグ仲間と共にロードを走るっていう楽しみ! その後の反省会と称したビール! それも結構大事だよね。
■コロナ禍での無事の開催に筆者も感無量だった
こんな楽しみもまったくないまま、1年半以上の時間が過ぎちゃった。
そんな「走りたいんだ! 走れるぞ!」「やっとロードレースが再開だぁ~!」といったワクワクの気持ちをムクムクさせたランナーたちが集まって、「第16回世田谷246(ニーヨンロク)ハーフマラソン」が11月中旬に開催されました。
例年、地域FM「エフエム世田谷」がレースを生中継し、そこで実況させていただいている私だって「そうは言ってもコロナの陽性者数が増えたら中止だろうなぁ~」って思っていたから、「マジ!? 開催かぁ~、吉報! 吉報!」とホッと安堵の気持ちがいっぱい溢れたよね。
このハーフマラソンの第1回は2005年11月に開催され、しばらくの間は大学の参加は数校のみ。陸連登録者と一般ランナーの競争率も、そこまで高いものではなかった。
それが「ニーヨンロク(国道246)を走れるんだよ!」「箱根路を走る大学生と走れるんだぜ!」みたいな情報拡散もあって(多分だけどねぁ~)年々参加希望者が増え、競争率も上がる! 上がる! 注目のハーフマラソンに成長していったんです。
今大会も青学大の活躍が目立った
青山学院大の初参加は第5回の2010年。そこでいきなりトップを取り、第16回の今年までに(第15回開催はコロナ禍で中止)青学大が、見事に6回も優勝しています。
箱根駅伝でも大活躍の青学大の参加が、世田谷ハーフの注目を集めるきっかけになったように私は勝手に思っています。
青学大が箱根を初制覇したのは、初参加から5年後の2015年でしたね。そこから脅威の4連覇! となるのだけど、最初から原晋監督は「この世田谷ハーフは、箱根にいいんだよね。練習になるし、選手を見るのに凄く役に立つ」と言って下さっていました。
国道246号線、世田谷の住宅街、川沿いのジョギングロード……スタートから風景も変わっていき、15キロ過ぎの後半にやってくる目黒通りに上がっていく急坂。
「このアップダウンから後半の長い坂がいいんだよ!」と話す、原監督の言うところの「箱根の選考レース」という言葉から「仮想箱根」と言われるまでになりました。
年を追うごとに参加大学が増えて行き、今年は20校がエントリー。なんと2022年の年明け2、3日の箱根駅伝本番を走る大学計20校のうち14校が参加をしています。
これってスゴイと思いません?
数年前からは青学大を始め、各大学の選手たちを見たいとスタート・ゴール地点の駒沢陸上競技場に選手目当てに集まる女子の増えたこと! ほとんどアイドルを追っ掛ける女子たちと同じ光景です。
いやぁ~良きこと、良きこと。注目を浴びてファンが付く、熱い声援がかかる、その声を意識しない選手はいない(と思う)し、若い大学生たちは、見られることで頑張る。素晴らしいことじゃないの、これって。
陸上界の選手層を厚くしていきたい
以前、原監督に「舞い上がったり、勘違いしちゃったりする選手っていますか?」とお聞きしたら「いたとしても、そんな選手は所詮そんなレベルよ。浮かれていたらそこで終わりよ」と話していました。
「箱根は優勝を目指すけど、でも目指すのはその先のもっと大きな世界でしょ、世界!」とも話されていました。
続けて「箱根で燃え尽きるとか、駅伝なんかに力を入れているからマラソンが伸びないとか、耳にするけどね、まずは(野球やサッカーなど多くのスポーツから)陸上を選ぶ! という若者を増やし、そして選手層を厚くしていきたい。そのためにも注目をどんどん集めていかないと。そうしていければ大丈夫」って。
そんな思いを聞いた経緯もあり、今回のレース前に原監督に「青学さんのおかげで大会も注目度が高まり……」といった話をさせていただきました。
すると原監督は「そうだよね、そうだよ、そうだよ! もっと言ってよ!」とツイッターで呟きながら、飛び切りの笑顔をいただきました。
さてさてーー。レースの実況に携わる筆者ですが、今大会はコロナ禍ということで「レース前の選手へのインタビューはなし」「お声掛けは監督、コーチ、マネージャーさんだけにしてね」と主催者側から事前に注意点あり。
実際の現場では「別に選手に聞いてもいいよ~!」と各監督に言われたものの、とは言え……ちゃんと自粛して選手には近寄らず、監督さんたちとのお話に集中しました。そんな中からお二人を紹介。
駒澤大学の大八木弘明監督は、穏やかな表情が印象的でした。そもそもとても優しい目をされた方なんですけどーー。
駒大・大八木監督の穏やかな表情の奥に…
10月の出雲駅伝での5位の結果に「選考ミス」と答えられている記事を読みましたが、その後の11月7日の全日本大学駅伝では7、8区を青学と競り合った末に優勝。
それ故の穏やか表情なのか、あるいは故障していた選手が復調したとか……? もしそうだったらいいですね!
駒澤大に限らず、この世田谷ハーフでは、全日本大学駅伝を走った選手は各人の設定タイムに準じたペース走を、出雲での成績不振選手や全日本大学駅伝での補欠やメンバー外の選手は、完全なマジな走りになるというのが通例です。
大八木監督は「トラックでの成績は良くても、ロードは違う。このレースで期待しているのは」と赤津勇進(2年)、唐澤拓海(2年)、円健介(3年)、庭瀬俊輝(1年)と何人かの選手の名前を挙げていただきました。
毎年、ゲストランナーとして駒澤大ヘッドコーチの藤田敦史さん(元マラソン日本記録保持者!)が走ってくださるのですが、今回は70分後半のタイムで走るよ!ということでした。
ゴール地点でお待ちしていましたが、予定タイムになっても姿が見えず、超心配に……。
後で聞いたら「足が途中で痛くなり、走り切るだけで精いっぱい」とのこと。
うんうん、コーチだって自分の体調管理って難しいんだなぁ~。
東京国際大の大志田監督は大学駅伝界随一の「いい人」
そしてお二人目は、お待たせしました! 出雲初出場で初優勝を遂げた東京国際大学の大志田秀次監督!
世田谷ハーフ初参加の大志田監督は、実は大学駅伝界ナンバーワンの「いい人」と言われています。腰も低く、レース当日に私にまで丁寧語でお話になられ、本当に恐縮してしまいました。
大会当日、真っ先に青学大・原監督の元にご挨拶に行かれましたが、こんなエピソードがあります。
青学大が箱根を初めて制覇した後、東国大の選手数名と共に青学大の寮に泊り、練習に臨む態度や日々の生活をどう過ごすのか、といったことを学んでいます。
それから箱根駅伝の予選会を突破してました。「学ぶ姿勢」って大事なんですね!
「(5位だった)全日本で出来なかったことを今、修正中です。最初は箱根の本大会に出ることが目標でした。次に上位を目指すことになり、そして今では上位を取り続けることに……。良い感じにチーム作りが出来ています」と大志田監督。
さらに「この大会も開催されるのか? とずっと心配でした。開催されることになって感謝しています。ありがとうございます」と私に向かって感謝のお言葉までいただき……ついウルウルとしてしまいました。
レースでは牛誠偉(1年)、冨永昌輝(1年)、ルカ・ムセンビ(3年)選手などのロードの走りを見たいし、1年生(全員)の走りもチェックしたいーーと精力的な大志田監督。相変わらず魅力あるお姿を拝見しました。
コロナ禍なので顔の下半分がマスクで隠れている監督さんやコーチさん。改めて「皆さん、本当に優しい目をしていらっしゃるんだなぁ……」とマイクを向けて取材しながら、しみじみ思っちゃいました。(つづく)
▽井上梨紗(いのうえ・りさ) 東京都出身のフリーランス・アナウンサー。高校時代からモデル活動を始め、大学時代に「東京アナウンスアカデミー」を修了。ラジオ、テレビ、各種イベントなどでMCやレポーターを務める。2003年から4年間の豪州在住経験を生かして留学関連アドバイザー、大好きなサッカー関連のセミナーやシンポジウムのMCなど活躍の場は多岐に渡る。