「江戸川乱歩と横溝正史」中川右介著

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 1922年9月、神戸で行われた馬場孤蝶の「探偵小説の話」と題された講演会場に偶然居合わせたのが、江戸川乱歩と横溝正史だ。2人が実際に会うのはその4年後だが、それ以前に馬場の探偵小説論を共に聞いていたというこのエピソードから本書は始まる。

 共に日本の探偵小説史上に大きな足跡を残した乱歩と横溝だが、著者は2人を太陽と月にたとえる。

「乱歩が旺盛に書いている間、横溝は書かない。横溝が旺盛に書いていると、乱歩は沈黙する。天に太陽と月の両方が見える時間が短いのと同様に、2人が共に探偵小説を書いている時期は、ごくごく短い」

 同時に、片方が作家として執筆しているときは、もう一方が編集者として支えるという、実に絶妙な関係でもあった。本書は、そうした2人の関係を時系列で追いながら、個々の評伝とはまた違ったそれぞれの作家像を浮き彫りにする。

 また、博文館、講談社などの出版界の動向も重ね合わせることで、探偵小説というジャンルを立体的にとらえているのも秀逸。(集英社 1700円+税)

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