妻を亡くした知人は「闘わない」と決めていたのだろうか
「弟が動けない状態です。佐々木先生にお願いしたいと言っています」
救急車で来院されたMさんは別人のように痩せ細り、血圧も下がっていました。奥さまを亡くしてひとり暮らしだったMさんは、数カ月前から固形物が喉を通らなくなり水分しか取っていなかったそうです。
点滴など、緊急の処置で血圧が安定したところで、全身のCTスキャンを行うと、縦隔に大きく広がった食道がんがあり、腹腔内のリンパ節、そして肝臓には大きな多数の転移を認めました。私は愕然としながら「どうしてこんな状態になるまで我慢していたのだろうか?」と思いました。Mさんはその後に意識がなくなり、3日後に亡くなられました。
■がん治療の環境は大きく変わっている
私は考えました。
奥さまのUさんががんと闘っている間、Mさんは、ずっと傍らで一緒だった。Uさんがどんどん悪化していく状態を見つめながら、耐え難い精神的な苦痛があったのではないだろうか。もしかして、あの頃に「がんとは闘わない。妻と同じような闘いはしない」と決心されたのではないか? そして、食べ物をのみ込めなくなった時、今度は自分ががんになったことに気づいていたのではないだろうか?