マスターの“説得”で命を救われた男性が今度は胃の検査で…
Mさんとマスターは、以前からこの話を何回も聞かされていました。Sさんは酔うと話すのです。それでも、2人は何も言わずに黙って素直に聞いていました。別の客が入ってきた時でも話は続きます。
Sさんは、この話を一晩に2回話すこともありました。そんな時は、明らかに酔っているとマスターが判断して、電話でタクシーを呼びます。Sさんは素直にタクシーに乗って帰るのでした。
■“骨折り損”で笑顔
ある時、Sさんが店になかなか現れないことがありました。たしか、検診か何かで胃の検査を受けると言っていたことをMさんとマスターは思い出し、2人は「胃の検査でがんでもあったのか?」とさすがに心配になりました。それでも、Sさんの携帯電話の番号も知らないので、黙って待つしかありません。
3週間後、Sさんが久しぶりに現れました。白い包帯に巻かれた左腕は板で固定されているようで、首から吊ってあります。転んで、腕の骨にひびが入ったとのことでした。Mさんとマスターは「大したことがなくて良かった」と手を叩いて喜びました。
「何が良かったんだよ。“骨折り損”とはこのことかよ」
Sさんはそう言って、2人と一緒に笑いました。