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佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

マスターの“説得”で命を救われた男性が今度は胃の検査で…

公開日: 更新日:

 Mさんとマスターは、以前からこの話を何回も聞かされていました。Sさんは酔うと話すのです。それでも、2人は何も言わずに黙って素直に聞いていました。別の客が入ってきた時でも話は続きます。

 Sさんは、この話を一晩に2回話すこともありました。そんな時は、明らかに酔っているとマスターが判断して、電話でタクシーを呼びます。Sさんは素直にタクシーに乗って帰るのでした。

■“骨折り損”で笑顔

 ある時、Sさんが店になかなか現れないことがありました。たしか、検診か何かで胃の検査を受けると言っていたことをMさんとマスターは思い出し、2人は「胃の検査でがんでもあったのか?」とさすがに心配になりました。それでも、Sさんの携帯電話の番号も知らないので、黙って待つしかありません。

 3週間後、Sさんが久しぶりに現れました。白い包帯に巻かれた左腕は板で固定されているようで、首から吊ってあります。転んで、腕の骨にひびが入ったとのことでした。Mさんとマスターは「大したことがなくて良かった」と手を叩いて喜びました。

「何が良かったんだよ。“骨折り損”とはこのことかよ」

 Sさんはそう言って、2人と一緒に笑いました。

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