名郷直樹
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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

感染症の流行に終わりなし…不要不急の外出禁止がもたらした矛盾

公開日: 更新日:

 ただ、このマスクの着用に関しては、感染症予防ということだけではない。健康維持のためというよりは、顔を隠したいというようなまったく別のニーズがある。コロナ流行以前からマスクを着けている人はそれほど珍しくはなく、それが問題にされることはなかったが、コロナの流行が健康と無関係なマスクの着用の問題も同時に顕在化させた。さらにわかりやすく言えば、マスクをしていない人を見つけては着用を強制する“マスク警察”の出現、逆にマスクの着用を断固として拒否する反マスクグループの出現。これは健康の問題ではない。

 コロナの流行も、健康だけの問題ではないと言えば当然のことでもある。コロナの流行は、人間の健康以外にも、多くの脅威をもたらした。むしろその健康以外への影響と健康に対する影響が相反するところに最大の問題があった。「命か経済か」というフレーズがしばしば語られたのは、そのひとつだ。しかしこれも、人は健康を失っても死ぬし、貧困で食べられなくても死ぬという、古くからある問題に過ぎない。

 さらには、経済という中には、当然、健康とは別の部分がある。むしろ日本のような豊かな国の経済の問題は、個人レベルでは健康の問題ではなく、自由な消費活動の問題である。「不要不急」の外出を避けようというフレーズが強調されたが、「不要不急」こそが多くの人にとっての楽しみ、もっと言えば幸せというのが、今の世の中の主流である。ただその反対に、誰もが「健康第一を目指す」という面をもっており、その矛盾をコロナが明らかにしたということだろう。

 新型コロナという新しい感染症を通して現れた、古くからの根本的な問題を考えたい。よろしくお願いします。

(名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)

【連載】医療だけでは幸せになれない

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