家族が認知症を発症したという現実を受け止められない
夫は「申し訳ない、ありがとう」とは言うものの、介護に全く関わらない。「俺もこうなるのか」と、ただただ悲観するだけです。昭子は夫に対し、怒りや嫌悪感を感じ始めます。
一方18歳になる息子は「いやだなぁ。こんなにしてまで生きたいものかな」「パパも、ママも、こんなに長生きしないでね」。その後に舅が亡くなり、葬儀が終わったときには昭子に「もうちょっと生かしておいてもよかったね」と他人事のように言い放ちます。
この「恍惚の人」の中では、「老後」「介護」「生死観」「哲学」などの要素があふれています。介護に対して目を背ける夫や冷めた様子の息子など、人間の老いを前に、家族のそれぞれの対応もこの小説の中で鮮明に描かれ、考えさせられます。
しかし私たちが在宅医療の現場で見聞きする、認知症に関わる各ご家族の現実の対応はもっと複雑です。
在宅医療を開始される認知症の患者さんのご家族においても、これまで一緒に生活していた親や祖父母が認知症を患っているという、その現実をなかなか受け入れられないというご家族は少なくありません。