プロ作家・村上龍先生をリスペクト。64歳のプロ童貞が語る「自己啓発本を好きなこれだけの理由」

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コクハク

100年前から言われていること

 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳の時に仕事中心で働く生き方をドロップアウト。現在は悠々自適な老後(?)を送りながら、還暦過ぎの童貞として注目を集めています。

【プロ童貞・山口明の「気になるアレ」】

 書店に行くと「幸せになれる」「人生が豊かになる」とか「いかに効率よく金を稼ぐか」みたいな成功のノウハウを伝授する自己啓発本と呼ばれるジャンルの書籍を目にすることがある。大量に平積みになってたり専用コーナーがあったりもするよね。

 だいたい「諦めなければ夢はかなう」とか「地道に努力しましょう」というような、親や学校の先生がよく言っていた内容なんだけど、それもそのはず。デール・カーネギーやナポレオン・ヒルという人たちによる昔のベストセラーが原初だったりするんだよ。

――え、そうなんですか? 知らなかったです。

 今も根強い人気の“引き寄せの法則”系の元ネタであるウォレス・D・ワトルズの「The Science of Getting Rich」なんて、出版されたのは100年以上も前。そんなに目新しくもない“昔からある話”なんだ。

 あまりにも奇天烈で斬新すぎる話だと誰からも共感されないだろうし、古来から言われていることの安心感ってあるんだろうね。

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自己啓発本はコスパがいい

 オレが若い頃、こういう自己啓発本って今ほど書店で目にすることがなかったような気がするんだよね。その頃はみんな小説とかの物語から生き方や考え方を自分なりに読み解いていた。

 だけど、映画やドラマも早送りで楽しむような今の若い人たちにしたら、そんな回りくどいことは“コスパが悪い”わけで、自己啓発本はいろいろとショートカットして、結論というか答えをズバッと言ってくれるんだから求められるのもわかるよね。

 すぐれた作家は小説よりもそっちに需要があることを、早い段階で理解していたのかもしれないとも思う。村上龍先生とかさ。

――どういうことですか??

 人気連載で書籍化もされた「すべての男は消耗品である」なんかは今思うと、限りなく透明に…じゃなくて、“限りなく自己啓発本に近いエッセイ本”って感じなんだ。

 それまで村上龍って小説家のイメージが強かったんだけど、売れるものを常に世の中に提供し続けるのがプロの作家なんだな~と思ったものだよ。

商品と作品の違い

 当時、オレが仕事で付き合っていた出版業界の人の中にはこういう自己啓発本への嫌悪感をあらわにして「売れれば何でもいいのか!?」なんて言う人も多かったんだけど、これは自分が作っているのが商品なのか作品なのかって話だよね。

 オレも以前、書籍のデザインとかを仕事にしてたときは常に自問自答してたような気がするし、出版だけじゃなくて映画や音楽、すべての表現者にとって正解のわからない永遠のテーマだよね。

――商品と作品の違いはどこにあると思います?

 オレの考えを言わせてもらうと、人が欲するものを提供するのが“商品”ならば、それを超えたものを提供するのが“作品”。作品は目にしたり手に取ったりすることで、人々や社会に新しい価値感や気づきを与えるような存在だよ。

 例えば、ここ最近のアカデミー賞を受賞するような映画って人種やジェンダー、分断とかの新しい価値感や世界感を描いた映画だったりする。それは地味だしヒットしないこともあるけど、確かにすばらしい“作品”なんだよ。

 一方、シリーズ化されて大ヒットしてるアクション映画って、どれだけ観客動員数が多くても賞は取らなかったりする。こっちはすぐれた“商品”なんだろうね。そんな風に考えると自己啓発本も“商品”枠になるよね。

――どっちも必要ですよね。毎回“作品”ばかり観ても疲れそうだし。

なぜ自己啓発本を求めるのか?

 なぜ人々は自己啓発本を求めるのか? やっぱり多くの人が、今の世の中に不安を感じてるからだろうね。

 人の不安に付け込む霊感商法みたいな、あこぎな商売にも見えるけど、出版社や作家サイドから考えたら大きなビジネスチャンス。

 いち自己啓発本好きの童貞としては、出版社はアレルギーを持たずに、ひとつのジャンルとしていろんな本を出してほしいと思うよ。

「売れなくてもいい」「良質な作品を作りたい」と考える志の高い出版関係の方々もたくさんいるでしょうが、作り手側が「売れなくていい」なんて表現を使うとコンテンツとしての力を失うし、やっぱり「売れるものには何かしらの意味がある」と思っているよ。

 皆さんDOなのYO!! 次回もお楽しみに。

(聞き手・箕浦恵理/コクハク編集部)

【童貞のつぶやき(おまけトーク)】

 実は陰謀論系やスピリチャル系みたいな“怪しいジャンル”の書籍も大好物。近所の書店をパトロールするのが日課なんだけど、結構たくさん置いてあるんだよね~。

 本は時代の世情をあらわすから、この手の本があふれているのも、世の中の“怪しさ”を反映させているんだろうね。

 普段、小説をあまり読まないオレだけど、久しぶりにおもしろいと思ったのが柴田哲孝先生の「暗殺」

 元総理の暗殺事件がモチーフになった話で、35年前に起きたあの未解決事件がつながってるなんて…! みたいな、フィクションとノンフィクションの垣根がわからなくなる内容で、小説だけど陰謀論っぽさもありオススメ!

(山口明/プロ童貞・現代アーティスト)

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