日本が熱狂 第1回大会出場の藤田宗一氏WBCの舞台裏を語る

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■「アメリカ人は日本の野球をバカにしている」

 第1回の世界大会、しかも、もともと別々の球団でやっている選手を集めたチームで優勝できたのは「引き締め役」がいたからだと思います。それが(宮本)慎也さんであり、イチローでした。

 自分も慎也さんに怒られたことがあります。米国に渡り、第2ラウンド前に大学のグラウンドで練習を終えたときのこと。ナオ(清水直行)や(藤川)球児たちと引き揚げるとき、見に来ていた日本人のファンとしゃべっていたんです。そうしたら「おい、おまえら遊びに来てるんちゃうぞ!」と。

 東京(第1ラウンド)のミーティングやベンチは慎也さんが引っ張っていて、米国からは自然とイチローがリーダーになっていた。印象的だったのは、第2ラウンド(アナハイム)の米国戦前。イチローは円陣の中心でこう言いました。

「アメリカ人は日本の野球をバカにしている。僕は勝ちたいと思っている。だから僕は1打席目にホームランを打つ」

 その直後、本当に初回先頭打者本塁打を打ったときは、ベンチはとんでもなく盛り上がりました。「本当に打った! かっこええ。コイツは有言実行やな」と思いました。

 この試合は「世紀の大誤審」といわれた疑惑の判定で負けましたが、この判定のときも、誰よりもベンチから身を乗り出してめちゃくちゃキレていました。王監督よりキレてましたね(笑い)。常に「こいつらには絶対に負けたくない。日本の意地を見せよう」と言っていた。メディア嫌いで知られ、福岡合宿ではひとりだけチームとは違う宿舎に泊まっていましたが、メディアで見ていたクールなイメージとは、あまりにもかけ離れていました。

■「おまえのプライドはいいのか」

 王(貞治)監督(現ソフトバンクホークス会長)には、すごく感謝しています。

 王さんはとても紳士。野球人生の節目で3度もお世話になりました。1度目はオールスター(01年)、2度目はWBC、そして3度目はソフトバンクに育成として取っていただいたことです。

 10年オフ、巨人から戦力外になり、古巣ロッテの入団テストを受けて契約することが決まった。球団が金銭の条件面を提示してきたので、「投げて稼ぐので、お金のことはいいです」と言ったら、「分かった、それなら取るから」と。しかし、12月10日を過ぎても連絡がなく、編成の上層部へ連絡しました。

「契約の件はどうなってるんですか?」

「悪い、取れなくなった」

 他球団の補強も終わった頃にドタキャンされたんです。愕然としていたとき、ソフトバンクの人から「まだ枠が余っているから、(王)会長に電話しろ」と助言され、会長の電話番号を教えてくれた。当時、一緒に自主トレをしていた斎藤隆さんからも後押しされ、留守電を入れたら2日後くらいに電話が鳴った。

「もしもし、王ですけど」

 まさか折り返しがかかってくるとは。経緯を説明して一度電話を切りました。妻にも「携帯が鳴ったら、風呂に入っててもすぐ持ってこいよ」と言っていたけど、そこからしばらく電話がかかってこなくて……。1週間後、「ごめんな、名球会でハワイに行っていて」と連絡が来ました。

「正直、取るつもりがなかったから(投げるところを)見ていない。育成(契約)でもいいなら取るぞ」

「ありがたいです」

「おまえのプライドはいいのか」

「僕にはプライドがないので大丈夫です」

 そんなやりとりをした後、年明けに再度連絡したら、「いつ福岡に来れる?」と言われ、福岡へ飛んでいきました。

 WBCから帰国後、周囲の環境は一変しました。まあ、言ってもロッテですから、それまでは自宅近くの個室でもない焼き鳥屋に行っても誰にも気付かれなかった。(05年に)日本一になったときも気付かれなかったくらい。普通に店で飲みつぶれて寝ていても平気だった。

 でも、帰国したその日に家族でそのお店に行ったら、妻や子供に「みんな見てるよ」と言われ、お客さんから声をかけられてびっくり。「藤田さんですよね」と言われて思わず「違います」と言ってしまった(笑い)。「日本がドエライことになってる」というのは聞いてはいましたが、ここまでとは思いませんでした。それからしばらくの間、電車に乗るとジロジロ見られたり、妻のところに「きょう藤田さんが東京駅歩いてたよ」という目撃情報の連絡が来ていたり。

 いつか、第1回WBCの同窓会ができたらいいですね。誰かが音頭を取ってくれるのを待ちたいです(笑い)。

(構成=中西悠子/日刊ゲンダイ

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