<6>認知症進行で貯金おろせず泣く母 ドンパン節を歌う父
父と母は年金暮らしだ。父名義の口座から母が生活費を引き出す。一企業を長年勤めあげた父は、厚生年金と企業年金でそれなりの額を受け取っている。
しかし2016年3月に父は銀行のカードをなくし、印鑑の場所や暗証番号も分からなくなった。父を銀行に連れて行くも、らちが明かない。母はとうとうキレてしまった。
「しっかりしてよ! どんどん頭おかしくなってるじゃない!」
すると父は「どーんどーんパァーンパーンどーんパァーンパーン」と、ドンパン節を歌ったのだ。もともとあまのじゃくというか、旅先の静寂かつ神聖な場所でわざと放屁するような困った男だった。でも家族を経済的な困窮に遭わせたことは一度もない。おそらく父はいつものようにふざけたのだ。ところが、生活費を下ろせなくなる恐怖と不安を抱えた母は、夫の不甲斐ない姿に愕然(がくぜん)とした。怒りを通り越して泣けてきたという。
認知機能が低下し、生活に支障を来すのが認知症だ。銀行でお金を下ろせなくなったのは明らかに支障だ。姉から聞いた話では、高速道路で期限切れのクレジットカードを使おうとして渋滞を起こし、通行料金の値上げのせいだと狂ったように主張したこともあったという。姉は認知症専門医に見せたほうがいいと考えていたようだ。