脳<下>大敵のストレスを解消するイメトレ法 専門医が指南
人間の脳は右脳と左脳に分かれている。言語や計算などの論理的なことは左脳で処理され、画像処理や空間処理、総合判断などは右脳で処理されている。つまり、普段日常的に行っている勉強や仕事の多くは左脳で処理されているのだ。
そして、右脳には「沈黙の領域」という未使用のエリアがあるといわれている。日本精神神経学会指導医で「保坂サイコオンコロジー・クリニック」(東京都中央区)の保坂隆院長が言う。
「右脳を鍛えて沈黙の領域を活性化できれば、脳力は飛躍的にアップするはずです。そこで、おすすめしたいのはスポーツ選手などが取り入れている『イメージトレーニング』です。これは自分が体を動かしているところや表彰台に立っているシーンを思い描くことによって、技術や集中力を高めようとするトレーニングで、試合直前に受けるストレスを解放できたり、脳の一部が活発に働くことが分かっています」
イメージは「映像」を思い浮かべることなので、このとき活発に働くのは主に右脳になる。だからイメージトレーニングをすると、ストレスという脳の大敵を撃退できると同時に、右脳を鍛えられるというわけだ。
初心者がイメージトレーニングをする場合、静かで精神を統一しやすい環境で始めるのがいい。やり方はこうだ。
①ベッドの上に楽な格好で座り、軽く目を閉じて大きく息を吐く②落ち着いたら、まぶたの裏に神経を集中し、映画のスクリーンに見立てる③そのスクリーンに、自分が達成したいと思っていることがかなった場面を思い描く。成功のイメージだけでなく、「自分は積極的な人間だ」などと、なりたい自分をイメージすれば、自己暗示の効果もある。
ノーベル賞受賞者にも左利きが多い
右利きの人が「左手も使えるようにする」トレーニングをすることも、右脳の活性化の効果が期待できるという。
「右利きと左利きでは脳の形や大きさなどは物理的にほぼ同じといわれています。しかし、使い方には大きな違いがあります。それが特にはっきり表れるのは、会話をするときです。右利きの人のほぼ100%が左脳だけを使っているのに対し、左利きの人の40%は右脳も使って会話をしています。左利きの人の方が右利きよりも右脳が活性化している可能性が高いというのです」
左利きの方が右利きよりも優れている面があるというデータもある。たとえば、左利きの男性は、同程度の教育を受けた右利きの男性より収入が15%多い。ノーベル賞受賞者にも左利きが多いことが分かっている。
だからといって、利き腕を右から左へ変えることは強いストレスになり、逆に脳の働きを損なうようになる。生まれつき左利きでないなら、「左手も使えるようにする」程度にとどめるのがいいという。具体的には次のようなことだ。
①「左手で歯を磨く」
磨く力が弱くて不安という人も、そのぶん丁寧に磨けば、右手で磨くよりも衛生状態はよくなる。
②「左手だけでキーボードを叩く」
趣味でネットを閲覧するときや、知人にスマホでメールを打つときは、左手だけでキーボードを叩いてみる。
③「左手だけで折り紙を折る」
鶴や風船など難しいものを折る必要はない。一つ折り、二つ折りから始めてみる。最初は壁などの助けを借りてもいいので、左手だけで折る。
「人間の脳は波動に似たリズムを続けていて、その動きを波形にとったものを『脳波』といいます。脳波にはアルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波の4種類があって、そのうちアルファ波が出ているときには右脳が活発に働いています。そのアルファ波を意識的に出せるようにする方法が『1分間瞑想法』です」
■1分間瞑想法のやり方
①イスに深くかけ、両膝を自然にそろえる②足の裏を床にピタリとつける③頭頂部にヒモをつけ、天井から引っ張られているようなイメージで背筋と首筋を真っすぐ伸ばす④顔を正面に向け、顎を引く⑤この姿勢のまま、仏像のように手を下腹の前で組む。人前で瞑想に入る場合には、軽く重ね合わせるだけでもいい⑥この姿勢のまま、腹式呼吸を深くゆっくりする。そして、息を吐きながら、心の中で「ひと~つ」「ふた~つ」「みっつ~」と数える。
慣れると、ゆっくり深く呼吸できるようになり、呼吸回数は1分間で10回以下になる。ここまでくれば、1分間ほどで瞑想状態に入ることができ、自分でも驚くほど集中力や記憶力を発揮できるようになるという。