歯科の新しい疾患「口腔機能低下症」では7つの検査が行われる 放置すると要介護リスク大
「口腔機能低下症」と呼ばれる疾患がある。2018年4月の保険改定で歯科領域の新たな病名として認められたが、一般にはそれほど知られていない。小林歯科医院院長の小林友貴氏に詳しく聞いた。
噛む、のみ込む、味わう、会話するといった機能は、口腔が担っている。口腔機能低下症は、加齢によって、こうした咀嚼、嚥下、唾液分泌、感覚などの機能が低下する症状が表れる病態だ。
「口腔の機能が複合的に低下している状態を放置していると、食べ物をしっかり噛んでのみ込むことができなくなり、低栄養につながります。すると、体重の減少、歩行速度の低下、筋力の低下などがみられるフレイルという状態になり、さらに、筋肉量が減少するサルコペニア、運動器の障害で歩行や日常生活に支障を来たすロコモにつながります。こうなると、寝たきりで要介護の状態になる可能性が高くなってしまうのです」
高齢になると、ただでさえ口腔機能が衰えるうえ、歯周病や虫歯、入れ歯が合わないなどで口腔内環境が悪化したり、生活習慣病などの慢性疾患が要因になって、さらに口腔機能が低下しやすくなる。しっかりと対策を講じたい。そのためには、いまの口腔機能がどんな状態なのかを把握する必要がある。歯科では「口腔機能精密検査」が実施されている。
「口腔機能精密検査では7つの下位症状について評価します。①口腔衛生状態不良②口腔乾燥③咬合力低下④舌口唇運動機能低下⑤低舌圧⑥咀嚼機能低下⑦嚥下機能低下の7項目を検査して、3項目以上に該当し、かつ③咬合力低下⑤低舌圧⑥咀嚼機能低下のうち1項目が含まれている場合、口腔機能低下症と診断されます」
検査の内容はどのようなものなのか。
①口腔衛生状態不良
「視診で舌に付着している舌苔の程度を見ます。舌の表面を9分割してそれぞれの舌苔付着の程度を3段階のスコアで評価します。合計スコアが9点以上の場合は口腔衛生状態不良となります」
②口腔乾燥
「2つの方法のどちらかで評価します。1つは口腔水分計を使う方法で、舌の先端から10ミリの舌背部分の口腔粘膜湿潤度を計測します。もう1つは乾燥した2グラムのガーゼを2分間噛んでもらってから、唾液を含んだガーゼを回収します。ガーゼの重量を測定し、増加分が唾液量です。湿潤度が27.0未満、あるいは唾液量が2グラム以下なら口腔乾燥ありになります」
③咬合力低下
「これも2つ方法があります。1つはデンタルプレスケールなどの感圧フィルムを3秒間噛んでもらい、どの程度の圧力で噛めているかや左右のバランスを見ます。もう1つは歯が何本残っているかを視診する方法です。20本未満の場合、咬合力低下と評価します」
④舌口唇運動機能低下
「しっかり発音できているかを確認する検査です。『pa』『ta』『ka』という音節をそれぞれ5秒間発音してもらい、1秒あたりの回数を算出します。いずれかが6回未満の場合、舌口唇運動機能低下とされます」
⑤低舌圧
「舌圧測定器を使って、舌にしっかり力が入るかどうかを評価します。舌圧計につながった小さな風船状の舌圧プローブを口に含み、舌と口蓋との間で数秒間押し潰してもらいます。最大舌圧が30(kPa)未満が低舌圧です」
⑥咀嚼機能低下
「2つの方法のいずれかで評価します。1つはグルコースという成分が含まれたグミゼリーを20秒間咀嚼してから水と一緒に吐き出してもらい、測定器を使ってグルコースの溶出量を測定します。グルコース濃度が100㎎/デシリットル未満で咀嚼機能低下とされます。あるいは、グミゼリーを30回咀嚼してもらってから、どれくらい粉砕されたかを資料と照らし合わせて評価します」
⑦嚥下機能低下
「これも2つの方法があります。いずれもいくつかの質問に回答してもらう形式で、1つは嚥下スクリーニング質問紙、もう1つは自記式質問票(聖隷式嚥下質問紙)を用いて行います」
口腔機能精密検査で口腔機能低下症と診断されると、改善策として生活習慣や食事の指導が行われる。
「歯周病や虫歯があったり残歯数が少ない場合は歯科治療が検討されます。また、適切な歯磨きの方法をはじめ、唾液分泌を促したり、舌の筋肉やのみ込む力を鍛えたり、咀嚼機能を向上させるトレーニングなどの指導も行って、口腔機能の改善や維持を目指します」
口腔機能精密検査は保険適用で、費用は3割負担で1500~2000円程度で受けられる。ただ、特殊な機器を使う項目もあるため、きちんと検査を実施している歯科を選びたい。