永田宏
著者のコラム一覧
永田宏長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

マダニが媒介する「SFTS」に要注意! 懸念されるのは新型コロナ以外の感染症

公開日: 更新日:

 新型コロナがようやく落ち着いてきたが、その陰で地味に勢いを増している感染症がある。中でもマダニが媒介する新規感染症が、医療界で静かな注目を集めている。それが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)だ。

 発生地は中国東北部。今世紀に入ってから、出血熱の症状を呈する患者が出始め、2011年に原因ウイルスが特定され、「SFTSウイルス」と呼ばれている。感染初期は、インフルエンザに似た症状が出るが、重症化すると血液中の血小板が急激に減少する。そのため皮下や消化器粘膜から出血しやすくなり、紫斑が現れたり下血したりする。さらに重症化すると、神経症状(意識障害、痙攣など)が出て、昏睡状態に陥り、死に至る。

 日本では、12年に山口県で50代女性の感染が確認された。風邪の症状に加え、脇の下のリンパ節が腫れ、手足が脱力し、白血球と血小板が著しく減少していた。入院治療の甲斐なく、4日目(発症から7日目)に出血性ショックで死亡した。死後の検査でSFTSウイルスが発見され、診断が確定したのである。

 これが日本初の患者だ。これを受けて、13年には4類感染症(全数報告義務)に指定された。その後、患者は増え続け、西日本一帯で毎年60人から100人、少しずつ増えながら推移している。しかも徐々に東に勢力を広げており、21年には千葉県で関東初の患者が確認された。中国における致死率は30%以上、日本国内でも20%前後と、かなり高い。

 ウイルスを媒介するのは、フタトゲチマダニやタカサゴキララマダニなど、日本中に普通に生息しているマダニである。都会人はマダニなど見たことがないし、まして刺された経験はほとんどないだろう。布団やカーペットにすみついて、ハウスダストの原因となるダニとは違う、吸血性の大型ダニ(数ミリ~1センチ程度)である。ヒトの皮膚に長い針(正しくは顎)を突き刺し、そのままじっと張りついて、数日から1週間以上にわたって血を吸い続ける。満腹になると、離れてどこかに行ってしまう。その間、ヒトの方は痛みやかゆみをほとんど感じない。見つけても、手で引きはがせないほどしっかり張りついているため、皮膚科に行って、皮膚ごと切り取ってもらうしかない。

 とはいえ、それらのマダニのSFTSウイルス保有率は数%に過ぎないとされている。だから刺されたからといって、直ちに病気を心配する必要はない。また感染しても、若くて健康なヒトは無症状ないし軽い風邪程度の軽症で済む。患者の大半は中高年や高齢者に限られる。

 しかし、感染した患者やペットからの2次感染があるので注意が必要だ。実際、SFTSに感染したイヌやネコを診察した獣医師が感染した、という事例もある。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

  4. 4
    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

  5. 5
    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6
    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

  2. 7
    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

  3. 8
    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

  4. 9
    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

  5. 10
    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し