新井平伊
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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

オリーブオイルが豊富な地中海食で脳の前頭葉機能が改善

公開日: 更新日:

おかず多めの賑やかな食卓が認知機能低下を防ぐ

 海外の食事習慣を日常的に取り入れるのはなかなか難しい。日本人が馴染みのある食事ではどうなのか? 福岡県糟屋郡久山町で食事調査を受けた認知症のない60~79歳の住民1006人を17年間追跡した成績(久山町研究)を用いて、認知症との関係を九州大学の先生らが調べました。

 すると、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、藻類、牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量が少ないという食事パターンが抽出され、果物・果物ジュース、芋類、魚の摂取量が多く、酒の摂取量が少ないとの傾向も見られました。

 この食事パターンをスコア化し追跡調査で食事パターンスコアと認知症発症との関係を検討。結果、この食事パターンの傾向が強い群ほど、すべての認知症の発症リスクが有意に低下しました。

「大豆や野菜などの摂取量が多く、酒の摂取量が少ない」というのは納得できるとして、「米の摂取量が少ない」ことに疑問を抱いた人もいるかもしれませんね。米は日本人にとって外せない主食ですから。

 その理由として研究者は、米の摂取量が多いほどほかの食品の摂取量が減ってしまい、栄養バランスが崩れてしまうからではないか、と推察しています。実際この研究では、米を単品で見た場合、米の摂取量と認知症発症との間に明らかな関連は認められなかった、との結果が出ています。

 国立長寿医療研究センターの研究も紹介しましょう。1997年に開始された「NILS-LSA」という研究で、食事と認知機能の関連を横断的に検討しています。

 認知機能が保持される食事はいくつかあったのですが(表参照)、食品の中で認知機能との関連が特に強かったものが、穀類。穀類摂取量が多いほど認知機能が下がる可能性が示されたのです。

 この研究では米類の摂取量は認知機能と関連していませんでしたが、うどんやそうめんなど小麦ベースの穀物摂取量が多い人ほど認知機能低下のリスクが高くなっていました。

 そこで研究者らは、穀物が脳に悪いのではなく、うどんやそうめんなど単体で食べることが問題ではないかと考え、食の多様性に着目し、さらに研究。すると、さまざまな食品群をバランスよく食べている、つまり食の多様性が高い人ほど認知機能が下がりにくいことがわかったのです。

 卵かけご飯を食べる人より、ご飯、納豆、卵、煮物、魚、具だくさん味噌汁とおかずがたくさんある方がいい。認知症リスクを下げるには何を食べればいい──? シンプルな答えとしては、いろんなものをバランスよく、となるかもしれません。

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