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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

統計学的に「正しい」が薬を飲む「正しさ」にはつながらない

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 もちろん下の血圧が高い人に対する降圧薬による脳卒中などの予防効果はすでに示されており、上の血圧も同様だろうということは、それなりに妥当な判断であったかもしれない。私自身も多くの降圧薬を処方していたひとりだ。

 さらにもう少し細かいことを言えば、40年前には、降圧薬による脳卒中予防効果は示されているものの、心筋梗塞や心不全の予防効果ははっきりしなかった。

 しかし、そこで降圧薬についてどんな変化が起こったかと言えば、β遮断薬、利尿薬という心筋梗塞や心不全の予防効果を示すことができなかった降圧薬を、脳卒中の予防効果すら示されていないCa拮抗薬、ACE阻害薬という当時としては新しい降圧薬に変更していくことであった。

 研修医時代に循環器内科をローテートしているときに、β遮断薬を飲んでいる患者が心不全で入院になると、「こんな薬を飲んでいるからダメなんだ。Ca拮抗薬かACE阻害薬に変更しないといけない」と、上級医に言われたことがある。

 しかし、これは今では間違いであることがわかっている。利尿薬、β遮断薬という古い降圧薬とCa拮抗薬、ACE阻害薬という新しい降圧薬を直接比較した多くのランダム化比較試験によって、心筋梗塞に対する効果はほぼ同等であり、心不全の予防効果はむしろ利尿薬で大きいことが示されている。

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