笹生優花だけじゃない フィリピンのDNAがスポーツ界を席巻
全米女子オープンを最年少(19歳351日)で制した笹生優花(19)。280ヤード超のドライバーショットは、飛ばし屋揃いの米女子ツアーでも見劣りしない。「パワーの源」は、日本人の父とフィリピン人の母から授かったDNAも大きく影響しているのではないか。
笹生を指導する師匠のジャンボ尾崎は、「今回の優勝は、彼女の育ってきたつらい環境をバネにした何クソ精神のたまものであると思う。努力しかないということを一番理解し、頑張ってきた成果でもある」とコメントした。
もちろん、日本女子ツアーでも有数の練習量を誇る、努力あっての快挙だが、国内アスリートのハーフといえば、テニスの大坂なおみは、父親がハイチ系アメリカ人。陸上短距離のサニブラウン・アブデル・ハキームは父がガーナ人。ケンブリッジ飛鳥は父がジャマイカ人。NBAで活躍する八村塁の父親はベナン人と、枚挙にいとまがない。
運動生理学的に見ても、黒人選手は持久力に特化している遅筋より、瞬発的に大きな力を発揮できる速筋の割合が多いといわれている。
「足を引っ張り上げるときに使う陸上選手の腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)を比較しても、日本選手の倍もある。黒人選手が瞬発系競技で有利な体なのは確かですが」と、旧ユーゴのナショナルスキーチームコーチだった平山昌弘氏(フィジカルトレーナー)は言う。
プロ野球や大相撲にも
「黒人とのハーフは身体能力が優れている」というのが、国内のスポーツ界では通説になっている。
例えばサニブラウンの父親は西アフリカに位置するガーナ出身。父の血が世界のトップを目指すスプリンターにも受け継がれているといえよう。
一方、笹生のように父か母がフィリピン人のハーフは、脚光を浴びる機会が少ないように感じるが、そんなことはない。
プロ野球界では巨人の戸根千明(28)、DeNAの山崎康晃(28)、日ハムの高山優希(23)、西武の小川龍也(29)といった投手がそう。
球界関係者が言う。
「例えば戸根は筋肉が柔らかく、疲労回復がとても早い。スタミナがあるので『連投はへっちゃら』と言います」
かつてサイ・ヤング賞2回の剛球右腕のT・リンスカムも父はアメリカ人だが、母がフィリピン人だ。
角界に目を転じれば、関脇の高安は大関まで昇進しているし、小結の御嶽海は幕内優勝2回。貴源治、今年の5月場所で引退した舛ノ山も母親の母国はフィリピンだ。
ある親方が言う。
「これまで日本人とフィリピン人の夫婦から生まれた若者が、どのくらい相撲界に入ってきたのかは定かではないが、少なくともこの4人は関取以上になっているので出世したといえる。彼らに共通している点は体格が立派なことと、性格も根はやさしい点だね」
■スペイン人の身体能力
フィリピン人には、黒人ほど筋力に顕著な特徴はないようだが、マニラの現地法人役員がこう語る。
「フィリピンの人は海外へ出ていくことに抵抗がない。『国内では仕事も収入も少ない』と言って、祖父母に子供を預けて日本に出稼ぎに行く夫婦もいる。今のフィリピン人はいろんな人種の血が混じっているが、かつてスペインに統治されていたことから、スペインの遺伝子も残っている。東南アジアの中では、西洋色を強く感じます。フィリピン最大の複合企業である、アヤラ・コーポレーションもスペイン系の会社ですからね。サッカーやF1ドライバーらに著名な人が多いスペイン人の身体能力の高さが、フィリピン人に受け継がれているという話は聞きますね」
前出の平山氏もこう言う。
「ジャンボ尾崎の全盛時代、フランキー・ミノザ(国内ツアー7勝)というフィリピン出身のプロゴルファーがいた。彼と話をしたとき、『自分にもスペインの血が入っているかもしれない』と語っていました。確かに彼の尻は西洋人のように高い位置にあり、姿勢もよかった。尻が高いと運動動作が安定します」
東京五輪はフィリピン代表として出場するという笹生。6月20日に20歳を迎え、五輪が終われば日本国籍にする意思を固めている。笹生の活躍で、フィリピン人ハーフの時代がやってくるかもしれない。