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武田薫スポーツライター

1950年、宮城県仙台市出身。74年に報知新聞社に入社し、野球、陸上、テニスを担当、85年からフリー。著書に「オリンピック全大会」「サーブ&ボレーはなぜ消えたのか」「マラソンと日本人」など。

その死から38年…瀬古利彦を育てた執念の勝負師・中村清を思う

公開日: 更新日:

 瀬古はそう振り返る。

 半端ない師弟関係だった。中村は恋人のように寄り添い、一時も目を離さず、84年ロサンゼルス五輪に向けて破竹の5連勝の陸の王者に育てた。

 旗揚げしたヱスビー食品に、日体大の二枚看板、新宅雅也、中村孝生をほぼ強奪。他にも大塚正美、米重修一といった学生エースや無名だった中山竹通も勧誘して断られている。瀬古の練習パートナーにされるのを嫌ったのだ。

 和式の毛針を使うテンカラ釣りの名手で、「キヨシ針」と名付けたオリジナルの毛針を結んでは魚野川に出かけた。狭心症を抱えていて、定宿の主人が中州に倒れているのを発見した。谷川岳が源流のこの川は5月でも水が冷たい。七回忌の命日、カメラマンの北川外志廣とそこでフライ(洋式の毛針)を振ったことがある。北川は小指ほどのコッパ山女をかけ、私は釣れなかった。マネジャーだった村尾愼悦によれば、魚籠には山女が12匹入っていたそうだ。

 その日、宿の主人は昼に迎えに来るよう言われていた。中村は午後に九州に飛ぶ予定で、九州産交のエース西本一也の勧誘が目的だったという。当時は移籍が厳しかったから、何か秘策があったのだろうか。西本に会う機会に尋ねたが、彼は言葉を濁した。ロスの夢は破れ、それでも中村は瀬古に夢を抱き続け、瀬古はその重圧に耐え続け、そうして時代は築かれた。

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