末期膵臓がんにかかった「作務衣の医師」 最後の提言とは
しかし、一般のがん患者はこうはいかない。大抵は「死への恐怖」に苦しみながら死んでいく。
田中医師に言わせると、世界に誇る日本医療で最も欠落しているのは「死ぬのが怖い」という患者のスピリチュアル・ペイン(いのちの苦)のケアだという。
「それを痛感したのは、国立がんセンターの内科医だった40年前です。担当したのは、いずれも死に直結する進行がん患者。『死にたくない、死ぬのが怖い』という悲痛なスピリチュアル・ペインを発していました。しかし、当時、私は宗教家ではなくサイエンスを扱う医師。どうすることもできませんでした」
■スピリチュアル・ケアワーカーの必要性
父の死で国立がんセンターを退職。その後、西明寺住職となって境内の有床診療所で治療を開始して以降、本格的にスピリチュアル・ペインとスピリチュアル・ケアに乗り出した。
「かつて、寺院は施薬院、療病院といわれる医療施設があり、僧侶が医学的治療と『いのちの苦』の治療にあたっていた。仏教では、苦が生じるのは思い通りにならない3つの欲があるからだと教えます。『愛欲』『生存欲』『死にたい欲』です。それをコントロールできれば苦はなくなる。仏教は苦の此岸から楽の彼岸まで運ぶいかだの役。故に仏教がスピリチュアル・ケアになり、僧侶はスピリチュアル・ケアワーカーだったのです。この復活が必要だと感じたのです」