認知症の親が、がんの手術を迫られた…症状が悪化するリスクは?
ただし、麻酔薬を投与すると「術後せん妄」のリスクを高めることは分かっています。手術を契機に起こる認知機能障害で、手術数日後から、錯乱・幻覚・妄想状態を起こします。認知症症状との違いは一過性であること。数日から数週間程度で落ち着きます。自然に回復することも多いですし、入院中であれば薬剤である程度症状を抑えることもできます。
せん妄は高齢者の術後合併症の中では最も多く、75歳以上の胃がん、大腸がんの手術後に27%の方に術後せん妄が起こったという報告もあります。問題は転倒のリスクが上がることで、術後に骨折など大きなケガをして寝たきりになれば、それがきっかけで認知症症状が悪化する危険もあるのです。
また、長期入院そのものが認知機能の低下リスクを高めます。ベッド上での生活は刺激が少なく、環境変化によるストレスは症状を悪化させます。さらに筋力の低下によって運動が難しくなれば認知症が進行する要因となります。
▽大西良佳(おおにし・よしか) 北海道大学医学部卒。国立国際医療センター初期臨床研修終了。順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座助教、米国留学などを経て、現在、宇治川病院勤務、合同会社ウェルビーイング経営代表。