「もうひとりの自分」と「時間が止まる」 高みを目指す過程で現れた2つの感覚
前回、およそ20年ぶりに手術での縫い方を変えたことについてお話ししました。チームのスタッフとの連携があまりうまくいかないケースがあり、縫合している最中に糸が切れてしまうトラブルが何度か発生したことが大きなきっかけでした。
手術の完成度をより高めるためにも、私は「変革は常に必要」という信念を持っています。とはいえ、これまで日常的に繰り返してきた動きを変えるわけですから、まったく悩まなかったかといえば、そうではありません。
執刀医のサポート役である助手に頼りすぎることなく、周囲との調和を図って連携をスムーズにするために何をすればいいのか──。あれこれ思案した結果、縫い方の変更に行き着き、背中を押してくれたのは「もうひとりの自分」でした。まるで幽体離脱したかのように全体を俯瞰して見ているもうひとりの自分が現れ、「そろそろ縫い方を変えたほうがいい」とささやいたのです。
何かに迷ったり、予期せぬ事態が起こったときにもうひとりの自分が現れるようになったのは、医師になって10年ほどたった38歳の頃でした。手術中に想定外のトラブルが発生したとき、手術台を上から俯瞰して冷静に見ているもうひとりの自分が現れ、耳元で指示をささやくのです。