「フィフティ・ピープル」チョン・セラン著 斎藤真理子訳
スジョンの母は医師に、娘の結婚式が9月にあるので、それまでには外出できないといけないと訴えた。医師に式を前倒しにした方がいいと勧められ、病院を出るやいなや式場に電話した。
「私ね、ガンが転移しましてね、もうすぐ死ぬの」
母が主導権を握ってから何もかも制御不能になり、スジョンは頭痛がした。写真スタジオでは最多撮影カット数を獲得、式場に飾る花だけでもひと財産使い果たしそうだ。当日、盛装の限りを尽くした母は、古典舞踊を踊るように一回転してみせた。さらららん。あの衣擦れの音とともに思い出になるのなら悪くないじゃない。(「ソン・スジョン」)
病人、けが人、医師など病院で出会った50人の人生が交錯する連作短編小説集。
(亜紀書房 2200円+税)