「タラクロ・保護猫・地域猫西方由美えんぴつ画集」西方由美著
愛猫を亡くしたのを機に、鉛筆で猫を描き始めた著者の作品集。
著者がまだ中学生だったある日、ベランダの植木鉢で気持ちよさそうに寝ていた猫がいた。それが愛猫タラコとの出会いだった。やがて家に自由に出入りするようになったタラコは、3匹の子猫を産み、引き取り手が現れなかったクロも著者の家の猫となった。タラコとクロの母娘「タラクロ」と過ごした20年の思い出が凝縮された作品が並ぶ。
2016年の秋にタラコを失った著者は、押し入れの中で眠っていた、かつてイラストレーターを目指して勉強していた頃に愛用していたケント紙と鉛筆を見つけ、久しぶりに絵を描き始める。
そうして出来上がった最初の作品は、年を重ね、表情から優しさがにじみ出るタラコと、その愛猫に寄り添う(おそらく彼女をモデルにして著者が作った)羊毛フェルトの人形だ。
丸みを帯びたその体や柔らかな毛並み、もの言いたげな瞳、すぐに手を伸ばしてなでたくなるほど、その画はリアルで、タラコの息遣いまでが伝わってくるようだ。
日課のベランダ散歩中に日だまりの中で一心に空気の匂いをかぐ姿や、思わず指を入れてみたくなるほどの大あくびの一瞬、そして数えるほどしか撮ってない貴重なタラコとのツーショット写真をもとに描き起こした一枚など。さまざまな表情をしたタラコに思わず頬が緩んでくる。
娘のクロは、その名の通り黒猫。文句なくかわいい子猫時代から、冷えを防ぐために毛糸の洋服を着た21歳になってもなお愛らしいお婆ちゃんクロまで、カメラマン泣かせといわれる黒猫を鉛筆の濃淡だけで描き出す。中には、好物のセロリに無我夢中でかじりつき、思わず野性がにじみ出てしまったようなクロを描いた作品もある。
子猫時代から共に時間を過ごしてきたクロは、著者にとって、もう猫という存在を通り越し「猫」じゃなくて「クロ」、そして「親友」だったという。
今は亡き2匹の愛猫の他にも、カメラレンズに向かって果敢にパンチを繰り出す子猫や、そーっと近寄る著者に三者(猫)三様の表情で見つめ返してきたきょうだい猫など。「ずっとのおうち」が見つかるよう頑張っている保護猫カフェの「スタッフ」猫や、地域の住人たちに世話を受け見守られる「地域猫」、そして外出先で出会ったさまざまな猫もモデルに描く。
子猫や貫禄たっぷりの猫、そして柄も異なる一匹一匹の猫たちのそれぞれの個性までが描き分けられる。
思い返せば、タラクロはイラストレーターの夢をあきらめ、二度と描くこともないと失意の底にいた著者にそっと寄り添ってくれた。そして2匹がきっかけとなって、こうして画集を出したり、個展を開くなど一度は諦めていた夢をかなえてくれた。
猫に和み、癒やされ、救われた人と、人の温かさに救われ、共に大切な時間を過ごし、穏やかに命を全うする猫。
そんな両者のかけがえのない関係がにじみ出た作品に見る者もまた癒やされる。
(金木犀舎 2300円+税)