「所有と分配の人類学」松村圭一郎著
「所有と分配の人類学」松村圭一郎著
文化人類学者の著者はフィールドワーク中のエチオピアで、ある体験をする。間借りしていた長屋の大家が部屋に現れ、何のことわりもなく著者の私物のラジオを持ち去ったのだ。
その行動に感じた違和感は、彼がラジオを仕事場である農園にまで持ち出したと聞き、さらに大きくなる。「わたしのもの」なのだから、私の許可を得て使うのが当然なのに。
「わたしのもの」という感覚がゆらぐ経験をした著者は、改めてエチオピアの人口2000人足らずのコンバ村に1年半滞在。村で放牧されている牛が誰のもので、誰の土地で放牧することが許されているのか、収穫された穀物を目当てに集まる物乞いへの「分配」など、村における「富の所有と分配」について調査。
「所有」という装置を通して、社会のあり方そのものを問い直す論考。
(筑摩書房 1650円)