「人工肛門」いらずの新治療に直腸がん手術の名医が異議
「直腸がんが筋肉をこえて浸潤している場合、ISRで外肛門括約筋を残したために、がんを取り残してしまう可能性があります。ステージⅠの直腸がんは再発があってはいけないがんですが、ISRを行う医療機関での再発率は、多いところでは15%。再発すると、5年生存率は30%を切ることもあります。最初の段階で人工肛門になっても、がんをすべて切除していれば5年生存率が90%以上になります。そのことを医師も患者さんもしっかりと理解しなくてはなりません」
さらに、内肛門括約筋と外肛門括約筋という2枚ある括約筋が、ISRの手術後は1枚になる。
「排便機能はどうしても落ちます。排便回数が5~6回に増え、オムツやパッドが手放せないという人も少なくありません。術後10年、20年とたつにつれ、加齢による括約筋の衰えも加わります。垂れ流しとなる状態がひどくなり、常にオムツをつけなくてはならず、肛門周辺がただれて人工肛門にしなくてはならなくなったり、外出を控えるという結果になることもあります」
そのままではISRが適応できない直腸がんに対し、まず放射線を当ててがんを縮小させ、その後、ISRを行い肛門を残すという方法を取り入れる医療機関も出てきている。しかし、それを先駆けて行っている欧米では、放射線によって肛門周辺の筋肉が硬くなり、肛門の収縮力が弱り、排便機能が著しく低下するという事例が報告されているという。