「手洗いが外科医の人生を決める」そう言っても過言ではない
外科医にとって欠かせない手術前の「手洗い」は時代とともに変化している――。前回、そんなお話をしました。科学的な検証をベースに、より低コストで必要以上の手間がかからず、環境にもやさしい方法に変わってきているのです。
医師やスタッフの手に付着しているブドウ球菌系の細菌をはじめ、大腸菌や腸球菌といった常在菌が手術中に患者さんに感染して感染症を引き起こすと、命に関わるケースもあります。それだけに、外科医にとって手洗いは基本中の基本となる作業といえます。
そのため、手洗いに関しては医学生時代から厳しく指導されます。研修医として外科に回り、スタッフに「初めて手術室に入る」ことを伝えると、実習を請け負ったチームの担当者が手洗いの方法を教えてくれるルールになっているのです。
研修医時代、指導役の看護師さんがジッと目を凝らしている前で初めて手洗いをしたときは、肩と背中に力が入りすぎてガチガチになってしまい、3回洗っただけでヘトヘトになったことを今でも覚えています。洗い残しがないように丁寧に洗わなければならないのはもちろん、手洗いの最中に少しでもどこかに手が触れてしまうと、「はい、やり直し」と厳しく指摘されるのです。