コロナ流行下での「親の寝たきり」リスクをどう食い止める?
コロナ禍における活動量低下で高齢者のフレイル問題が指摘される一方で、新たな事業として高齢者のフレイル対策に取り組む企業も出てきている。たとえば2005年から自立した高齢者に向けた賃貸住宅「ヘーベルVillage」を展開している旭化成ホームズは、業界で初めて「自分のことは自分で」を応援するサービスを始める。日常の生活行動を運動のチャンスとすることが、フレイル対策につながるからだ。ゲンダイの読者世代が親のために知っておくべきことは? 東京都健康長寿医療センター研究所高齢者健康増進事業支援室の大渕修一研究部長に聞いた。
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まずは表の項目に親が該当しないか、チェックしてほしい。3項目以上該当するとフレイルで、1個でもその前段階のプレフレイルだ。
「この状況を改善するには、筋肉の細胞を活性化させるスイッチを入れるといいでしょう。それをすれば、弱っていくのを止められます」
筋肉の細胞は加齢とともに減り、増やせない。しかし1つの細胞が今以上の能力を発揮できるようにするのは可能だ。そのためには筋肉へ負荷をかけなくてはならない。
「従来の高齢者の運動は『無理のないように』が基本でした。しかし過負荷の原則から、無理のない運動では筋肉の細胞を活性化させるスイッチが入りません。程度は人それぞれですが、共通しているのは、『ちょっと無理する負荷』です」
過負荷の原則とは「日常生活で使われるよりやや高い負荷をかけないと体は強くならない」ということ。若者だけでなく高齢者にも当てはまる。
■何歳でも体の機能は向上する
大渕研究部長は、高齢者に実施できる安全な高負荷筋力増強トレーニングに関する研究も行ってきたが、それまでは高齢者への高負荷の筋力トレーニングは健康を損なうとされてきた。血圧が上昇し心臓や血管に損傷を与えてしまうのではないか、体を消耗させ老化を加速するのではないかと考えられてきたからだ。
「しかし高齢者276人に3カ月間筋トレをしてもらった研究では、何歳になっても筋トレで体の機能が伸び、心配されたような危険はありませんでした。さらに800日間の観察で、老化は加速せず、筋トレ効果が持続することも明らかになりました。フレイル、プレフレイルであっても、その人にとって『ちょっと無理』と感じる強度のトレーニングで、体の機能を変えられるのです」
親に提案するなら、「徒歩10分かかっていたところへ、9分30秒を目指して行けるようにする」「自宅の2階と1階の行き来を増やす」「椅子の手すりを持たずに立ち上がれるようにする」など。スクワット、ラジオ体操、ウオーキング、スポーツジム通いなどときどき体をいじめることがおすすめだ。これらは2日に1回行えば十分。
「提案だけでなく、『お父さん、さすが』『自分も見習う』『そうやって元気で長生きしてくれるとうれしい』など、言葉で伝えることも親のやる気を引き出すのに大事です」
78歳の女性は典型的なフレイル。階段は手すりなしに上れない。歩き方もよちよち歩きだった。
大渕研究部長は、過負荷の原則でちょっとだけ負荷をかけた筋力増強トレーニングを指導。3カ月後には、椅子の手すりをつかまなくてもすっと立ち上がれるようになり、歩行スピードが2倍速に。本人も自信が出てきて、自ら体操を継続。1年後には踊りの会に入会するまでになり、1年半後には手すりを使わなくても階段の上り下りをさっさとできるようになった。
「『年を取って足腰が弱ったから社会参加できない』と思っている人が多いですが、『社会参加しないから足腰が弱る』。子供が積極的に親に働きかけ、社会参加させる。関心を示すこと、いつまでも社会参加ができる環境を整えることが一番の親孝行です」
「コロナ禍だから」と手をこまねいていてはいけない。
親を寝たきりにしないために、今から動くべきだ。