「夢」が死の恐怖を乗り越える術になる患者さんもいる
国文学者の川平ひとし氏(当時57歳)は、ある病院で消化管がんの手術を受け、肝転移で再発して「もう治療法はない」と宣告され、奈落に落とされました。それから私たちの病院に転院され、ご自身の体験をこう話してくださいました。
「予想もつかない何かのきっかけで安寧になれる」「人の心の奥には、誰しも安寧になれる心を持っている」「夢で古い友人と会ったことで生きる確信を得た」
その時は「先生に負担をかけるから」と言って、これ以上は話されませんでしたが、後日、詳しい内容について奥さまからお手紙をいただきました。以下がその抜粋です。
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夢に入るや否や、それは普段見るものとは全く異なった世界のものである事が感じられた。尋常でない強い緊張感と圧迫感が張り、どこか聖性を帯びた秘儀的な恐ろしさが充満し、戦慄を覚えたが激しく魂は揺さぶられ、魅了された。
夜、南島の夜だった。珊瑚礁の上を波が静かに寄せ、月が皎皎と恐ろしいばかりに美しく波打ちぎわを照らしていた。