なかなか良くならない拒食症に「集団家族だけ療法」
家族だけ療法は、摂食障害治療の現場で豊富な経験を有する濱中禎子元東京医療センター看護師長の提唱する方法論で、現在は宗医師や大森美湖東京学芸大学准教授らが、濱中氏を顧問として開催している。
「親さえ変われば、成人難治例であっても拒食症は治る。長年の臨床経験に裏付けされたこの考え方から、家族だけ療法では親にのみ集団指導を行い、従来の治療では必須の子供へのアプローチはしません。文字通り“家族だけ”が対象です」
親たちに徹底的に強調するのは、我が子に対する「傾聴・共感」。人は会話で「感情を受け止めてもらえた」と感じない限り、話し手のターンは終わらず、「割り込まれた!」という苦痛が喚起され、助言や意見は全く入っていかない。
逆に、親がひたすら子供の訴えに耳を傾け、気持ちを受け止め続けると、子供の親に対する信頼が回復し、拒食だけでなく、他の過食や万引、自傷行動、買い物依存といったさまざまな問題行動までもが消退していく。しかし、多くの親がこの当たり前のことができない(分からない)。
「成人の摂食障害で、親を治療の中心に据えるなど時代遅れも甚だしい、と批判を受けるのが現代医学の主流です。しかし、たとえ愛情からであっても親が無意識に繰り返し続ける不適切なコミュニケーションが、摂食障害回復を妨げていることは疑いようがありません」