いまも思い出す父のありがたい親心 勝新太郎さんの父親も…
それを聞いた私は、がんであれば手術はどうしようか、東京へ連れてくるかなど、思い悩んでN医院に駆けつけました。N医師から父の胃内視鏡の説明をしていただいたところ、たしかに胃潰瘍で、がんではなさそうでホッとしました。
その時、N医師から別室に案内されました。そこには父が趣味で描いた毛筆の達磨絵が、掛け軸になって五幅対ほど飾ってあったのです。驚いた私を見ながら、N医師は満足げにほほ笑んでいます。
その中の一幅には、「八風吹不動 天辺月」の文字がありました。人生、さまざまな風が吹くが、どんな風にも動じない天空の月のような不動心が必要だという意味のようです。私の自宅にも、この掛け軸があります。日常の自分を省みると情けないかぎりです。
話は変わりますが、私は学生時代、勝新太郎さんの映画「座頭市」が好きでした。映写が終わって、暗かった映画館から外へ出ると、目も開けられないほどまぶしく、私はしばらく座頭市の“がに股”で歩いていました。
それからずいぶん後のことですが、たまたま勝新太郎さんの父、三味線奏者の杵屋勝東治さんのお話を聞く機会がありました。私から見ると、息子の若山富三郎さんや勝新太郎さんよりもずっと美男子で、背筋はピンと伸びて姿勢よく、“お殿さま”のような感じのとても魅力的な方でした。