病理解剖によって初めて明らかになることがたくさんある
ある日、亡くなった患者の病理解剖(剖検)を行っている時のM先生の言葉です。
「血液のがん以外では、脾臓にがんが転移していることは少ない。この患者のがんは、脾臓にも転移が来ている。進行が激しいがんだな」
患者が亡くなると、私たちは、ご家族の方に病理解剖をお願いしました。
「解剖することによって、私たちには分からなかったことが明らかになります。次の同じ病気の患者に生かせることがあります。ご遺体をこのまま焼いてしまう前に、お願いできないでしょうか? もちろん、無理にとは申しません」
中には、ご家族の方から「亡くなった父は、大変お世話になったのだから、先生から解剖を頼まれたら了解するようにと言っていました。どうぞ、よろしくお願いいたします」と言っていただけることもありました。
了解が得られると、私たちはさっそく病理科に連絡します。病理科では医師同士で当番を決めてあり、当時は夜中でも剖検しました。
部長のM先生は、とても熱心な医師でした。普段は1時間半くらいで終わるのですが、M先生が当番で担当されると最低でも2時間以上を要しました。M先生は目を輝かせ、しっかり説明しながら剖検してくださいました。臨床病理医として超一流であったと思います。