天野篤
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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

「旅行」は健康寿命を延ばし、心臓の健康維持にも役立つ

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精神的にもプラス効果が

 こうした身体的な要因だけではなく、旅行は精神的な面からも心臓を含めた健康効果が見込めます。とりわけ、中高年にとってはプラスが大きいと考えられます。

 個人旅行、あるいは現地で終日フリーのパックツアーなどでは、出発前から「どこに行こうか」「現地では何をしようか」「どのような行程で周遊するか」といった計画を自分で立てます。準備段階から予定や行動スケジュールの管理を行うことは、脳に新たな刺激を与えることになります。

 また、旅先では普段と違った食事をとったり、現地の人と交流したり、見たことがなかった景色を目にしたり、初めての体験をしたりと、ここでも新たな刺激が入ってきます。

 さらに、いまは旅行中にスマホで写真や動画を撮る人が多いでしょう。かつて、写真はカメラで撮影して、旅行から帰ってきたら写真店にフィルムを持参して現像してもらうものでした。しかしいまは、スマホに記録されている画像データを自分で整理したり、編集するケースが一般的になっています。旅の思い出を振り返りながら、そうした知的作業を行うことは、これも脳にとって新たな刺激になるうえ、幸福感や充実感が高まってストレスの軽減にもつながり、健康効果をもたらすのです。

 これまで何度かお話ししていますが、「見た目=外見」が年齢より若く見える高齢者は、健康的に人生を全うできるケースが多いと感じています。年を取ってヨボヨボしてきて、体はそれなりに健康なんだけど、いかにも「老人」という見た目や行動をしているような人ではなく、たとえば100歳で亡くなる時には60代くらいに見られることを目指して生活すれば、心臓を含めた健康寿命を延ばすことができるのです。

 そのためには、おいしく食べられる、しっかり目が見える、耳が聞こえる、手足が動く、用足しも自分でできるといったように五感がしっかりしていて、他人の世話にならずに日常行動ができることが必要条件になってきます。不自由さを感じたらおっくうがらずに医療のサポートを借りて五感も取り戻しましょう。そして、それを維持するために旅行が大いに役立つのです。

 日本の観光庁が実施した「旅行による効用の検証結果」によると、旅行者のアンケートにこんな回答が寄せられています。

「人生を楽しむという精神面が向上した。もっと元気になろうという意欲が湧いた」「外出の回数を増やすよう努力している。リハビリにも出来る限り行くようになった」「車いすを使用せずに、歩行可能な距離が増えた」「要介護5から要介護2になった。杖を使用して300メートルほど歩けるようになった」

 健康的に人生を全うするためにも、晩年こそ旅行を大いに活用してもらいたいものです。

■本コラム書籍化第2弾「若さは心臓から築く」(講談社ビーシー)発売中

【連載】上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

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