<12>がん細胞はどのように浸潤・転移するのか?
しかもE―カドヘリンは細胞増殖を抑制する働きもある。そのためここに異常が生じるとがん細胞の増殖力がアップする。
また、上皮細胞の下の方には「基底膜」と「間質」がある。基底膜はコラーゲンなどの線維からなる丈夫な膜で、間質はコラーゲンなどの線維と線維芽細胞、リンパ管、血管などからできている。基底膜と間質を合わせて細胞外マトリックスと呼ぶが、がん細胞はこれも超えていかなければならない。
「がん細胞はメタロプロテアーゼという酵素を放出します。この酵素は上皮細胞の結合を解体させ、細胞外マトリックスを分解する働きがあります」(一石教授)
こうして血管やリンパ管にたどり着いたがん細胞はその表面にとりつき、その基底膜を分解する。その内側の内皮細胞もメタロプロテアーゼによって分解され、血液の中に入ることができるのだ。
この脈管系の旅はがん細胞にとって命懸け。成功するのはがん細胞1万個のうちの1個ともいわれている。
運よくがん細胞にすみやすい場所にたどり着くと、細胞に吸着するタンパク質を分泌してそこに定着。新たなすみかをつくるため浸潤を始める。やがて新天地のがん細胞は急速に成長するために、必要な栄養や酸素を手にするために新生血管を張り巡らせることになる。