新井平伊
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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

80代の親が脊柱管狭窄症で歩けない…手術するかどうか悩んでいる

公開日: 更新日:

無理のない歩行でも脳のアセチルコリンが増え海馬の血流が良くなる

 東京都健康長寿医療センター研究所では、なぜ歩行が脳に影響を与えるかを研究。ラットを用いて、「アセチルコリン神経を刺激すると、大脳皮質や海馬のアセチルコリンが増え、脳の内部の血管が広がり、血流が良くなる」「アセチルコリン神経を刺激すると、神経細胞死が起きにくくなる」ことを明らかにしています。

 東京都健康長寿医療センター研究所は、歩行が脳のアセチルコリン神経の活性に関係があるのではないかと考え、さらなる研究を行いました。

 まずラットをトレッドミルの上で「遅い」「普通」「速い」の3段階で30秒間歩かせ、海馬の血流と血圧を同時に測定。すると、いずれの速さでも、歩行直後から海馬の血流が増え始め、歩行をやめると徐々に元に戻ることがわかりました。血圧は、歩行速度が速いと著しく上がり、普通と遅い場合ではほんの少し上がるだけでした。

 そこで血圧があまり上がらない普通の速さでの海馬のアセチルコリンを調べると、増加していることが判明しました。

 これらの研究から読み取れることは、無理のない歩行でも海馬のアセチルコリンが増え、海馬の血流が良くなるということ。高齢者では、記憶などの機能をつかさどる海馬で脳血流の低下が見られますが、それが歩行で改善できるかもしれないのです。歩くことは、脳の血流を良くするだけでなく、認知機能維持につながるさまざまな効果があります。フレイル(虚弱)やサルコペニア(加齢による筋量低下)を予防し、寝たきりリスクを低くします。

 スーパーに出かけることひとつとっても、脳へたくさんの刺激を与えます。「歩いて買い物に行く」「スーパーで何を買おうか考え、妥当な値段のものを選ぶ」「店員さんや顔見知りの人と会話を交わす」などなど。

 自分の足で歩けなくても車椅子などの手段はありますが、高齢で脚が痛くて歩けなくなった人では一般的に、自宅へ引きこもりになりがち。これが招く社会的フレイルが認知機能低下を引き起こすことは、広く知られています。

 冒頭の80代の女性ではないですが、脊柱管狭窄症で歩けないようになっていて、それが治療で改善できそうなら、歩くことを諦めないでほしいと思います。

 なお、「歩けなくなる↓認知機能低下」を今回取り上げましたが、「歩くスピードが遅くなる↓認知症の前兆」といったことを示した研究も行われています。歩行速度の低下と認知機能の低下について、次回取り上げたいと思います。

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