余命1年…家族の希望で本人には末期と悟られないように療養
その患者さんは乳がんと多発骨転移により末期状態にある80歳の女性の方でした。食事はほとんど問題なくでき、痛み止めも子供や大人まで使えるごく一般的な薬カロナールで対処できていましたが、1カ月ほど前から食欲不振で病院を受診したのち一気に状態が崩れ、ご家族はその病院の医師から「余命は1年ほど」と告知されました。そこでご家族は、お看取りが近く医療依存度の高い方を多く診ている施設の入所を決断し、そこからの依頼を受け、当院が診療をさせていただくことになったのでした。
ご本人は末期であることや予後の話などは聞かされておりません。施設の入所も、いったん状態を整えて家に帰るためと伝えているとのことで、そんな患者さんに対し私たちも診療中は、けっして末期であるとご本人には伝えず、少しでも明るい気持ちになるように努めたのでした。
朝の全体ミーティングにおいては、スタッフ間でも認識を共有し、常に電子カルテを表示し確認するようにするなど、最大限の配慮を行い、療養に当たったのでした。
このように在宅医療では治療面だけでなく、精神的な側面であっても、常に患者さんとご家族の生き方に寄り添い配慮するのはもちろんですが、その場合、なにが正解なのか、現場でいったん立ち止まり考え、自問自答しながら訪問診療を行うように努めているのです。